岩佐和幸・大貝健二編著(法律文化社/2025年10月/A5判304頁)
本書は、経済政策を「広義の経済」を対象とする公共政策と捉え、生活を支える現場から世界とつながる現場まで視野を広げながら、政策形成の背景や立案・遂行過程、そして実施後の影響までを詳細に分析している入門書である。「批判的検証に留まらず、解決への実践も取り上げ希望をつくる糸口を示す」という意欲も体現されている。執筆者は編著者の2名を含めて16名の研究者。
<全体の構成-13の経済政策>
第Ⅰ部では、本書の目的である「希望をつくる経済政策」の基礎的概念と意図が述べられている。第Ⅱ部以降は、経済政策の13分野について分析され、各分野のサブタイトルが、ポイントを理解しやすく工夫されていて、興味深い。
◆食料・農業政策─アグロエコロジーへの転換をめざして─
◆医療政策─医療政策の展開と住民参加の可能性─
◆住宅政策─自己責任の原則を超えて─
◆コミュニティ政策 ─経済を担う「市民」を育てる─
◆産業政策 ─「構造改革」から「産業政策の新機軸」へ─
◆中小企業政策─発展可能性の模索─
◆労働政策─人間らしい働き方と暮らしを求めて─
◆国土政策─開発から形成,そしてデジタルへ─
◆財政政策─財政を地域に取り戻す─
◆金融政策─持続可能な経済成長を支えるために─
◆通商政策─世界経済の不安定化と日本の歩むべき道─
◆国際協力政策─日本の国際協力と人間の安全保障─
◆エネルギー・環境政策─カーボンニュートラル実現に向けて─
巻末は「主要参考文献」/「関連年表」(1945~2024)/「索引」である。
<学習会テキストに活用を!―「コミュニティ政策」について>
各政策分野とも、歴史的経緯の丁寧な分析と展開を追い、今と未来を考える素材として、学習会テキストとして活用しやすい工夫がされている。各章の冒頭には、全体をイメージできるイントロダクションとキーワードを設け、章末には、より深く学ぶための諸資料が挙げられている。巻末の「参考文献」や「関連年表」は個別政策と全体との関連を把握するため、配慮されている。
13の政策分野の中でも、“これも経済政策?”と喚起したいのが、第6章のコミュニティ政策─経済を担う「市民」を育てるーである。戦前の国民総動員路線と異なるコミュニティの概念が登場したのは、1969年の「国民生活審議会」答申においてである。旧来の共同体に代わる新しい概念として、「生活の場において、市民としての自主性と責任を自覚した個人および家庭を構成する主体として、地域性と各種の共通目標をもった、開放的でしかも構成員相互に信頼感のある集団」(p.95)をコミュニティと呼ぶ、とされた。
上から組織するものではないのだから、さまざまの試みを経て、近年注目されているのは、「地域運営組織」(RMO)である。2013年時点で、「地域の暮らしを守るため、地域で暮らす人々が中心となって形成するコミュニティ組織により生活機能を支える事業体」(p.98)とされていた。2024年時点で8193団体に増え、まつり・運動会・音楽会などのイベント、交流事業、健康づくり・介護予防、地域の美化、交流誌作成、防災活動、文化・スポーツ、高齢者交流サービス等を実施している。
だが、本章で述べている住民参画とは距離があるとされている。2025年6月に地方自治法が改正され、「指定地域共同活動団体」制度の運用が決まったもとで、RMOを行政に類似する組織として管理するのでなく、行政がRMOと協働することが求められると述べている。そして、「大切なことは、コミュニティの担い手を育成し、経済や社会を住民自らがコントロールできる人材を増やすことである」(p.109)と結んでいる。その実例として「とさっ子タウン」を本章冒頭に挙げている。
このように、「コミュニティ政策」の紹介だけでも、学びが多い書である。一人で読む以上に、グループでの学習テキストにお薦めしたい。 (伍賀偕子 ゴカトモコ)
※第9章「労働政策を考える」の章末において、「本章をさらに理解するための資料」が掲載されており、当館もご紹介いただきました(p.164)。記して謝意を表します。(館長・谷合佳代子)

