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『大阪の近代 大都市の息づかい』

新着図書案内 寄贈本紹介
  • 大阪の近代 : 大都市の息づかい / 大谷渡(おおや・わたる)編著(東方出版)237p

 本書は、大谷渡を研究リーダーとする「関西大学大阪都市遺産研究センター」の7名による研究成果の集約であり、『大阪都市遺産研究叢書3』にあたる。
 冒頭このように紹介すると、むつかしそうに聞こえるが、副題にあるように、近代大阪の息づかいが多方面の分野にわたって感じられる、非常に面白い書であると同時に、奥深い史的研究の成果に接することができる。大学の研究紀要だと一般には接しにくいが、このように市販の出版で読み物風に編集されていると親しみやすく、研究の成果を享受できてありがたい。
 「街が姿を変えていく内側には、人の暮らしの営みが多様な形の層をなして、時には長く深く、時には短く、明滅を繰り返しながら息づいている。激変する大都市の明治から大正、そして昭和へと、流れゆく時代の波に目を凝らしながら、人々の息づかいに耳を澄まし、改めてその姿と意味を浮かび上がらせることができればと思う」が、編者の意図するところである。
 対象時期は、日本が本格的な資本主義形成期に入った1890年代から、戦後復興を経て高度成長が始まった1960年代初めまでである。
 歴史というと敬遠する人には、興味のある章から読まれることをお薦めするが、一応順番どおり紹介する。
◆序章 「20世紀の息吹の中で」
  1880年代初めに大阪に生まれ、日本に近代社会形成期に育った若き女性の思想と行動を20世紀の息吹の中に位置づけ、彼女たちの目に映じた産業革命達成期の大阪の姿を言及している。登場する若き女性たちとは、浪華婦人会設立の格となった女性たちである。その幹部であった歌人石上露子(いそのかみ・つゆこ)、大逆事件の犠牲となって絞首台に送られた管野(かんの)スガなどの大阪での活躍が述べられている。
◆第1章 「悲しみと希望」
「東洋のマンチェスター」と呼ばれた工業都市大阪の基盤形成期が記述されている。大阪というとすぐ紡績が浮かぶが、燐寸工業の歴史も面白い。時代の写真も貴重だ。
◆第2章 『大阪時事新報』に見る明治後期の衛生環境
◆第3章 「新聞作家と道頓堀五座」
 宇田川文海(うだがわ・ぶんかい)・菊池幽芳(きくち・ゆうほう)・渡辺霞亭(わたなべ・かてい)らの小説が道頓堀五座で上演された作品の劇評を追い、役者・観客の動向から、この時代の社会と街の変化を読み解いている。
◆第4章 「大阪五花街断章」
 遊郭を舞台に生起する事象から明治末期の街の断面を浮かび上がらせている。
◆第5章 「北船場」地域の会社の変遷
 社会的・文化的・経済的に高い地位を保持した船場地域に着目。
◆第6章 「師団移転・公園化の構想」
 砲兵工廠をはじめとする軍事施設が集中した大阪城の公園化構想の背景を詳述。
◆第7章 「航空時代の女性記者」
 朝日新聞記者からスタートして国際的に活躍したジャーナリスト北村兼子がとらえた大阪の街と、政治・社会・文化に言及している。
◆第8章 「織田作之助が愛した街」
 織田作之助の作品群の中に、ラジオ放送番組の脚本を位置づけ、文学的特徴にせまっている。
◆第9章 『大阪新聞』のコラムと司馬遼太郎
 司馬遼太郎の新聞記者時代のコラム文章の幾編かを紹介しながら、秀逸な文章の中に大阪の街と世相をとりあげた内容を追っている。(伍賀偕子)