『対決 安倍政権―暴走阻止のために』

 五十嵐 仁(学習の友社/2015年3月/126頁)

 著者は、2008年〜2012年に法政大学大原社会問題研究所長だった政治学者で著書多数。
 本書の目的は、「ブレーキをかけるためには、猛スピードで突っ走っている安倍首相が目指しているこれからの日本とはどのようなものなのか、それがいかに危険で国民を不幸にする道なのかを、まず理解していただかなければなりません。そのために、本書が役立つことを願っています」と「はしがき」で述べられている。
その現状分析と暴露は、全面にわたっているが、短くコンパクトにまとめられていて、学習テキスト向きである。
 第2次安倍政権が誕生した2014年12月総選挙の結果は、自民党が「圧勝」したかのようなマスメディアの報道だったが、議席総数で2議席小選挙区では222議席と15議席減らし、小選挙区での得票数も18万票の減少であり、この減少傾向は09年、12年と続いている。にもかかわらず、48.1%の得票率で、75.3%の議席を獲得できたというカラクリは、比較第1党が議席を獲得できるという小選挙区制によるものだと(小選挙区制については、同著者『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』がある)。
そして、この選挙により各党の消長と原因分析もなされている。

 第2章以降、「憲法をめぐる対決」「生活をめぐる対決」「労働をめぐる対決」が展開され、第5章で「政治変革の展望」が述べられている。
 「憲法をめぐる対決」(2章)では、集団的自衛権の行使容認――何が問題か、特定秘密保護法の危険性、「海外で戦争をする国」に向けての危険な目論みと諸準備、自民党改憲草案の危険性が分析され、「危機感」を共有できる内容が丁寧に説かれている。この危険な方向に突っ走っている安倍政権にストップをかけなければという問題認識が、終章の「政治変革の展望」に貫かれていると言えよう。

 「生活をめぐる対決」では、「貧困化」や格差の拡大、「社会保障改革」という名の命と暮らしの危機が立証され、とくに、若者が抱えている困難と意識状況が重点的に分析されている。

 「労働をめぐる対決」では、80年代の中曽根政権時代から小泉政権による構造改革路線で全盛期を迎えた「新自由主義」が、国鉄をはじめとする「民営化」の結末、「自己責任論」と「規制緩和」等、どれほど働く者の困難をもたらしてきたかを分析。「規制緩和」については、労働者派遣事業の拡大、職業紹介事業の緩和、労働時間の弾力化という3つの流れに沿って、80年代から現在までの展開を非常に的確な規定によって追っている。矢継ぎ早な攻勢を、時系列に正確に追うことができる説明である。

 終章の「政治変革の展望」は、4章までで分析した政府権力側の攻勢を、やられっぱなしだけではなく、突っ走っている安倍政権が直面するジレンマについて述べている。その攻撃に対する反発・抵抗や世論の変化、共同の広がりと可能性を、主として沖縄を「日本の明日」=「一点共闘から統一戦線の萌芽」として示しながら、展望として語られている。その展望の中で、労働組合運動の刷新が大きな位置を占めており、職場、産業、地域、職能の重視という視点が強調されている。そして地域を基盤とした個人加盟組合の運動など地域合同労働組合の取組みや社会運動ユニオズムに注目している。運動課題としては、それらの地域労組と市民団体、労福協や労金全労済・生協・NPOなどの連携強化を通じて、公契約条例の制定や非正規労働者の処遇改善、中小企業への支援策など、上部団体の違いを越えた共同闘争が重要であり、可能であるとされている。

 本書が「学習の友社」からの出版であることから、読者対象が全労連系の活動家を想定されているからか、実践例や引用、出典がそこに限定されていることに、変革の展望との関わりでいささか気になるが、「安倍政権の暴走を阻止するために」喫緊に共有するべき、政治暴露と学びの書である。(伍賀偕子)