『海底の紙ひこうき』東川絹子著、原田健太郎絵、同時代社 本体1,852円+税
空にもみえる青い青い海底と一機の飛行機。静かな美しい表紙です。
1963年11月9日。三井三池炭鉱三川坑爆発事故が起こりました。事故による死者は458名、CO中毒患者は839名。一酸化中毒患者とその家族たちは後遺症に長く苦しむこととなりました。
事故に先立つ1960年、同じ三井三池炭鉱では日本最大の労働争議である三井三池闘争が展開されました。このエネルギーに満ちた闘争は非日常的な高揚に炭鉱労働者だけではなく、その家族たちも巻き込んだのでした。
この絵本の作者である東川さんは、三池炭鉱の社宅に生まれ育ち、多感な10代に闘争と爆発事故を経験しました。しかし、この絵本では闘争は取り上げられていません。描かれているのは炭鉱で働く父と娘の「日常」です。
深い海底の下で採炭作業をする仕事への誇り、仲間への信頼が父から幼い娘に語られます。子煩悩な父は、料理や造園、動物の飼育と「なんでもできるとうちゃん」でした。
そのとうちゃんを襲ったのが爆発事故でした。CO中毒患者となった父。絵本では月日が過ぎ大人になった娘と年老いた父の穏やかな交歓のみが描かれるのですが、その静かさにかえって語られない日々が思われるのでした。
特記すべきことに全文に英訳がついています。
この絵本は最初私家版としてだされました。しかし、多くの反響があり、この11月(2018)に同時代社から出版され、市販されています。知る機会が少なくなった炭鉱の仕事、生活、爆発事故のことなどを伝える1冊です。また、高次脳機能障害で奮闘される当事者や関係者の方々にも寄り添う絵本です。