エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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労働アーカイブズの課題について考える

 この半年ほどの間に当館スタッフが執筆した以下の著作を2回に分けて紹介します。

①「労働アーカイブズの現状と課題 ―法政大学大原社会問題研究所の事例より」を聴講して 森井雅人[著], 日本アーカイブズ学会『アーカイブズ研究』第39号, 2023.12

②社会運動史研究者がスポットワークをやってみて 黒川伊織[著], 『POSSE』54~56号, 2023.8~2024.3

 

 今回はまず①を取り上げます。本稿は日本アーカイブズ学会が主催したオンライン研究集会を当館のボランティア司書が聴講した、その報告です。全体が「報告」と「所感」の二つに分けて書かれています。本講の講師である榎一江教授のお話は、100年を超える歴史と伝統ある大原社会問題研究所の沿革と現状・課題まで幅広く言及されました。

 その講演を聞いて、森井は大原社研の資料収集の歴史が、「発足時が「能動的収集」とすれば現状は「受動的収集」と感じ」たと書いています。実際、当館もそうなのですが、法政大学大原社会問題研究所の書庫もすでに満杯を通り越している状態ですから、とても積極的に資料を次々と収集するというわけにはいかないでしょう。

 また、現在の日本のアーカイブズ機関共通の問題として、森井は「日本では記録にかかわる専門職の機能がなかなか確立していない」と指摘し、大原でさえアーキビストは任期付きの勤務体制だったのかと感じたと述べています。そして、「労働運動研究のセンターとしての大原社会問題研究所の存在は非常に大きい。問題の打開に関し、一歩一歩の解決進展を願うものである」とまとめています。

 榎講演を聞いて森井が感じた危機感や課題は、当館も共有するものがほとんどです。資料保存の意義とその困難のはざまにあるアーカイブズ機関は数多いことでしょう。知恵を絞り知恵を集めて乗り切りたいものです。(谷合佳代子)