エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

ブログ記事の引用転載を希望される方は、https://l-library.hatenablog.com/about をご確認ください

『女工哀史』と猪名川――名著は兵庫県で書かれた(1)

 日本近代史研究者・小田康徳先生の『猪名川史話―兵庫川西・川とくらしの地域史』が2017年夏ごろには刊行されます。それに先立ち、関西の労働史にかかわりの深い部分を抜粋し、4回に分けて連載します。予告編がこれだけ面白いと本編が楽しみですね。

 大正14年(1925)7月に初版が発行された『女工哀史』のことを、ここでお話しましょう。これは、戦前の日本資本主義を底辺で支えた女子労働者の生活記録として、彼女らの働く紡績会社の労働現場を記録するものとして、また文学作品としても不朽の価値を持っています。もちろん、『女工哀史』については教科書にも出てくるものですから、もはや、あれこれ説明する必要はないでしょう。しかし、この著書のかなりの部分が、多田村新田(現在川西市)の猪名川染織所でこの著者とその妻が働きながら書き続けていたことはご存じだったでしょうか。著者らが猪名川の流れに心を癒されながらこの不朽の名作を書き綴っていたこと、これは猪名川の歴史にとっても欠かすことができません。ここで、ぜひ紹介しておきたいと考える所以です。


※写真:細井和喜蔵・としを夫妻が暮らした猪名川付近の現景―多田神社を望む(小田康徳氏提供)

 『女工哀史』の著者は細井和喜蔵。明治30年(1897)5月8日、京都府与謝郡加悦町加悦谷に生まれました。関西の工場で職工生活に入り、やがて労働運動に参加します。そのため「黒表(ブラックリスト)」がついて就職ができなくなったと自分で述べています(『女工哀史』自序)。彼は、東京に出て仕事につきながら、いつかはみずからが体験してきた紡績女工たちの劣悪な生活実態を小説的、散文的にまとめてみようと思い立ちます。そして、東京の工場で働きながら、少しずつ書き始めようとしていたのですが、またまた工場の争議に巻き込まれてそこも辞めざるを得なくなってしまいます。こうして彼は二年前に結婚していた妻としをの仕事とその収入に頼りつつ『女工哀史』の文章を書き始めたのです。大正12年(1923)7月、26歳の時でした。

 さて、このままならば、この名著は東京で書き上げられていたと思われますが、運命というのは不思議なものです。大正12年9月1日に起きた関東大震災で、震災後数日は東京で過ごしていたのですが、労働運動家は殺されるという友人の警告を聞いて、彼らは、取るものもとりあえず、二人で家を出、上野〜直江津〜名古屋〜岐阜へと回って、やがて大阪四貫島の東洋紡績社宅に住む昔の知り合いの家に厄介になり、続いて世話する人の勧めで多田村の猪名川染織所に勤務することとなったのです(高井としを『わたしの「女工哀史」』)。

 ところで、多田村の猪名川染織所といま簡単に書きましたが、ここを特定するにはいろいろ調べることが必要でした。細井和喜蔵の『女工哀史』自序には「兵庫県能勢の山中へ落ち延びて小やかな工場へはいり」とだけあります。これでは工場は特定できません。

 はてさて、どのように調べてこの工場を特定したのでしょうか、そのお話は次回で。(つづく)(次回は12月末の予定)

<小田康徳>
1946年生まれ。大阪電気通信大学名誉教授。NPO法人旧真田山陸軍墓地とその保存を考える会理事長。あおぞら財団付属西淀川・公害と環境資料館館長。主な著作は『近代日本の公害問題―史的形成過程の研究』・『歴史に灯りを』など。『新修池田市史』など自治体史にも多数関係している。川西市在住。

市民アーカイブ多摩にエル・ライブラリーがデビュー

f:id:l-library:20161125133737j:plain:left 報告が遅くなりましたが、7月29日に館長谷合が市民アーカイブ多摩(東京都立川市)にお呼ばれして講演した内容が、『アーカイブ通信』no.8(ネットワーク・市民アーカイブ編集発行)に掲載されました。

 市民アーカイブ多摩は2014年4月に設立された、多摩地域を中心とした個人や団体が発行する通信・会報など市民活動資料を収集公開する民間のアーカイブズです。
 そもそもは、東京都立多摩社会教育会館市民活動サービスコーナー事業が2002 年に廃止となり、そこで収集された市民活動資料ダンボール500 箱を散逸させてはいけないという運動から始まりました。アーカイブズの来歴が当エル・ライブラリーと似ていますね。募金活動を行って開館にこぎつけたということで、現在までずっと市民ボランティアによって運営が続けられています。
 「過去・現在・未来における資料の共有を内実とする、“ 市民活動資料を共有する思想” を創造していきます」と、設立の趣旨に謳っておられます。大変共感することが多いアーカイブズです。

 市民アーカイブ多摩では「緑蔭トーク」という講演会を定期的に開催しておられますが、谷合は特別編として急遽登壇させていただきました。そこでは、エル・ライブラリーという資料館がどのように生まれ、どのように駆け足でここまで運営を続けてきたか、市民に支えられ市民を支える図書館・アーカイブズとしての歩みを語りました。

 最新号の「アーカイブ通信」(2016.11月号)にはその時の抄録が掲載されています。同誌は8ページと短いのですが、全頁カラー印刷の美しいものです。エル・ライブラリー内で限定部数配布していますので、お早めに手に取ってご覧ください。

新着雑誌です(2016.11.25)

今週の新着雑誌です。
新着雑誌は閲覧のみです。貸出はできません。
労務事情 No1329 2016.11.15 (201269826)
ビジネスガイド No831 2016.12.10 (201269842)
労働法律旬報 1874号 2016.10.25 (201269784)
賃金と社会保障 1668号 2016.10.25 (201269818)
賃金と社会保障 1669号 2016.11.10 (201269735)
労働法令通信 No2433 2016.10.28 (201269875)
労働法令通信 No2432 2016.10.18 (201269909)
労働法令通信 No2434 2016.11.8 (201269768)
労働法令通信 No2435 2016.11.18 (201269792)
月刊人事労務 333号 2016.10.25 (201269701)

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『飾らず、偽らず、欺かず 管野須賀子と伊藤野枝』

 田中伸尚著(岩波書店/2016年10月/四六判240頁)

 
 「大逆事件」(1910−11年)で処刑された唯一の女性、管野須賀子(かんの・すがこ)。その約10年後、「甘粕事件」(1923年)で憲兵隊に虐殺された伊藤野枝(いとう・のえ)。女性を縛る社会道徳や政治権力と対決し、コンベンショナルから脱出し、自由を求めて疾走した二人の生と思想を、「歩いて書く」という書法で調べた関係者の証言や資料をもとに描き出した、読み応えのある示唆深い書である。
 書名の「飾らず、偽らず、欺かず」は、須賀子の獄中手記に書かれた言葉。
大逆事件」については、第59回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した、同著者の『大逆事件―生と死の群像』(岩波書店)に詳しい。
 二人は14歳違うが、思想系譜や活躍の舞台から考えれば出会いがあってもいい筈であるのに、権力・軍部の理不尽極まりない暴力によって、二人とも30歳前に命を断たれて、出会うことがなかった。須賀子の刑死の翌年に、野枝が表現の舞台にデビューしたことになる。
 著者によれば、須賀子は、みずからアナキスト無政府主義者と名乗った「最初の女性」であり、もともとクリスチャンのジャーナリストだが、国家ではなく個人の生や思想を尊重し、女性の人権を大事にする世界に変革するにはアナキズムだと考えるようになった。当時としては当たり前だった忠君愛国主義者だった彼女が、社会主義者との出会いの中で、その思想を変革成長させていく過程も丁寧に実証されている。
 そして、野枝も、堂々とアナキストを名乗り、女性としては、須賀子についで二人目だったと述べている。思想の自由が極端に狭められた「冬の時代」に、互いに出会うことがなかったとしても、見えないバトンを受け取ったのだと思うと、共通点を見出している。

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新着雑誌です(2016.11.12)

今週の新着雑誌です。
新着雑誌は閲覧のみです。貸出はできません。
労務事情 No1328 2016.11.1 (201269503)
賃金事情 No2728 2016.11.5 (201269560)
人事実務 No1166 2016.11.1 (201269594)
労働経済判例速報 2289号 2016.10.30 (201269537)
労働者の権利 vol.317 2016.10.25 (201269677)
月刊人事マネジメント 311号 2016.11.5 (201269479)
労働法学研究会報 No2632 2016.11.1 (201269644)

詳細な目次はこちら

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新着雑誌です(2016.10.31)

今週の新着雑誌です。
新着雑誌は閲覧のみです。貸出はできません。

労政時報 3918号 2016.10.28 (201269529)
賃金事情 No2727 2016.10.20 (201269495)
企業と人材 No1044 2016.10.5 (21269552)
労働経済判例速報 2288号 2016.10.20 (201269636)
労働判例 No1140 2016.10.15 (201269602)
別冊中央労働時報 1502号 2016.9.10 (201269669)
別冊中央労働時報 1503号 2016.10.10 (201269461)
賃金と社会保障 1667号 216.10.10 (201269586)
月刊人事労務 No331 2016.8.25 (201269610)

詳細な目次はこちら

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資料修復を体験しました

 10月23日(日)、あらゆる紙資料の修復・レプリカの制作をされている「工房レストア」さんで紙資料の修復見学会を開催していただきました。参加者は当館の谷合を含めて4人と小ぢんまりした集まりとなりましたが、その分、みっちりしっかり体験できたのではないでしょうか。

<2016.10.30追記:工房レストアさんのブログにも記事が掲載されました。
http://koborestore.blog.fc2.com/blog-entry-260.html


 工房レストアの平田社長の指導により、最初に木版刷りの和装本の裏打ちを練習し、その後、実際に当館所蔵資料の修復を行いました。


 ↑まずは慣れない手つきで裏打ちの練習。水をつけすぎても糊を付けすぎても、皺になります。


 ↑ Sさんは何度か裏打ちの経験があるため、大変手際がよろしいです。と、平田社長に褒められました。

 当館所蔵資料については、修復作業のごく一部を行っただけですが、大変緊張しました。
 平田さんの素早い手際とわたしたちの緊張でガチガチのおぼつかない手元では、まったくスピードも仕上がりも異なり、さすがはプロの仕事だと感服しました。
 単に資料を修復するだけではなく、それがその後も活用されるようになってほしいというのが願いだ、と平田さんはおっしゃいます。修復を依頼されたお客さんと一緒に作業することによって、クライアントもその文化財に対する思いが強くなる、とのこと。確かにそうですね。して、当館館長谷合が肩に力を入れて超緊張しながら作業中。もう肩がバリバリに凝っています。


 ↓裏打ちが終わった紙は板に張り付けて乾かします。仕上がりが楽しみ〜。

 今回は資料の修復だけではなく、レプリカの作成もお願いしています。これが出来上がれば、見学会でいくらでも参加者に触ってもらって、いろいろと見ていただけるのが嬉しいです。
 お休みの日に仕事場に呼んでくださった工房レストアの平田さん、参加された3人のみなさん、ありがとうございました! 開始にあたっていろいろ不手際があったことをお詫びいたします。これに懲りず、またいろんなイベントにご参加くださいね。(谷合)