『労働史からみた同一労働差別賃金―その変遷と問題点』

柳田勘次著(兵庫県労働史研究会/2017年4月/A5判130頁)

f:id:l-library:20170727181730j:plain

  著者は1931年生まれで、労働運動現役時代の1960年代から70年代には、総評全国金属兵庫地本書記長ならびに委員長を務めながら、多くの研究論文や著書を著しており、その問題意識の鮮明さが伝わる書である。

 1992年に発足した「兵庫県労働史研究会」が日本の賃金の歴史について、特に「同一労働同一賃金」「年功賃金」「電産型賃金」をめぐって研究会で議論を深めた内容を柳田氏がまとめたのが本書である。

 

 <本書刊行の目的と構成>

 本書刊行の目的は、安倍政権の「偽の同一労働同一賃金」に対して「真の同一労働同一賃金」の実現をめざす絶好のチャンスに、職場における差別賃金反対闘争を積極的に組織しながら、「同一労働同一賃金」の立法闘争を強化する必要から、とされている。

 生活賃金(年齢給)と採点給(査定給)という日本の差別賃金制度は、1929(昭和4)年の横浜船渠に導入された「合理的賃金制度」以来、長い歴史をたどっている。

 年功賃金は、終身雇用・企業別組合とともに日本企業の三種の神器と言われ、所与のものとして受け止めがちだが、本書の第一章冒頭は、「その昔、日本は欧米と同じ、横断的労働市場であった」から展開されている。それが、欧米と違って日本ではなぜ長い差別賃金の歴史をたどったのか、先達たちの差別賃金との闘いの分析と教訓を追う。

 目次は以下の通りである。

第一章 戦前の生活給と技能給・採点給

第二章 国家総動員法下の労働政策

第三章 敗戦で大転換した国家体制と有利だった労働情勢

第四章 有利な客観情勢を生かしきれなかった労働運動

第五章 電産型賃金の成立過程にみられる問題点

第六章 電産型賃金をめぐる評価

第七章 職務給の導入とその問題点

第八章 職能資格制度の本質とその問題点

第九章 成果主義賃金の本質とその問題点

あとがき

 

 

 本書では、電産型賃金が戦後の年齢給と査定賃金に及ぼした影響を重視して、その正と負の遺産を詳しく分析している。第六章の電産型賃金をめぐる評価においては、産別会議による指導でも総評賃金綱領でも、「同一労働同一賃金の実現」や「査定賃金」については一言も書かれていなかった、そのために、同一労働同一賃金をめざして電産型賃金の克服に挑戦した単組や支部の闘いは孤立し、厳しい組織破壊攻撃を受けたという総括は、労働運動史の総括にもかかわる重要な指摘であり、より詳細な学びが必要だと感じた。

 「あとがき」(p.83)で結んでいる提起は次の通り。

査定による差別賃金をなくして同一労働同一賃金を早期に実現するためには、査定賃金制度を労働史の視点からフォーカスして、その教訓に学ぶ必要がある。[中略] 年功賃金を守るのではなく、「若年層と中高年層の賃金を共に引き上げて不当な賃金格差を圧縮する必要がある。一例をあげれば、「一律+比例+α」の大胆な賃金闘争が求められている。そうしなければ、歴史に学ぶ意味が失われるといってよい。(p.83)

 

<補録 査定賃金制度に関連する当面の諸課題>

 補録も、本論と同等の重要な提起がされていて、より現代的な課題と結びついている。目次は以下の通りである。

 第一章 企業別組合をめぐる諸問題

 第二章 年功賃金をめぐる諸問題

 第三章 定期昇給の本質

 第四章 差別賃金反対の裁判闘争について

 第五章 同一労働同一賃金の実現に向けて

 あとがき

 

 補論における提起は、「同一技術教育と同一職業訓練同一労働同一賃金の前提」であり、労働組合の課題である。技術進歩は日進月歩だから、労働者の技術教育と職業訓練は喫緊の課題である――と。低賃金層を最低賃金制と公契約条例(生活賃金運動)で底上げして、同一労働差別賃金を是正し、国際的な(企業をこえた)賃金原則にもとづかなければならない。欧米型の職種別・熟練度別賃金をコピーするのでなく、仕事について3年たったら、「普通の熟練工」として一人前の賃金がとれる同一労働同一賃金を目ざすことである。そのためには、同一産業と同一地域の活動家が交流を活発にして、歴史的に検証された実績がある要求方式を参考にし、査定の効果を縮小して格差を是正する要求を決めることである――と。

 

<評者からの付記3点>

 以上、字数の関係で個々の記述の要約はできないが、当研究会の高いレベルの討議には脱帽であり、賃金論の解説書が少ない中で、少々難しいが、集団で学習するテキストとして貴重である。

 ただ、評者から3点付記したい。賃金論争の歴史的分析において、総評時代の「大幅賃上げか横断賃率か」の論争に触れられていないが、その論争の歴史的限界から何を教訓化すればいいのか学びたいと思う。2点目は、同一労働同一賃金の実現のために必要な視点に、「家族数と賃金のリンク」をたちきる前提条件としての社会保障の充実への言及が不可欠なのではないかと思う。

 3点目は、補録第四章「差別賃金反対の裁判闘争について」の記述中、屋嘉比ふみ子が原告となった「京ガス事件」について、「東京地裁での勝訴、東京高裁での勝利的和解」と記載されているが、正確には「京都地裁での勝訴、大阪高裁での勝利的和解」である。全国的な支援闘争ではあったが、主要に担ったのは関西の運動であったし、「同一価値労働同一賃金」原則の歴史的判決であるので、「正誤表」が必要だと思う。 (伍賀偕子(ごか・ともこ) 元「関西女の労働問題研究会」代表)

※本書は市販本ではないので、注文は兵庫県労働史研究会まで(連絡先は当館からお知らせしますのでlib@shaunkyo.jpまでメールしてください)。送料込み1,000円。