エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『社会運動のグローバル・ヒストリー 共鳴する人と思想』

田中ひかる編著(ミネルヴァ書房/2018/A5判298頁)

 社会運動のグローバル・ヒストリー

 本書は、19世紀から現代までに世界で現れた「国境を越える社会運動」に焦点を当て、歴史をグローバルに学ぶことを目的に、大学1年生向け講義のテキストを念頭に編まれている。

 本書での「社会運動」の定義は、― 社会にあるさまざまな問題を解決する、あるいは社会そのものを変革するために、議会や選挙といった狭い意味での政治的な制度の内部ではなくその外側で形成される、「普通の人々」による集合行為 ― とされている。

 編著者田中ひかる(明治大法学部教授)のほか、次の6名が幅広い社会運動の各分野を執筆している。

― 女性たちの社会運動=崎山直樹(千葉大講師)、国境を越える平和運動=竹本真希子(広島市大准教授)、移民ネットワークと社会運動=山口守(日大学教授)、マイノリティがつくりだす社会運動/難民による社会運動=山本明代(名大教授)、社会主義者アナキストによる社会運動=梅森直之(早稲田大教授)、働く人々の社会運動=篠田徹(早稲田大教授)―

 今日ではグローバルに認められている権利や制度(言論・集会・結社の自由、男女普通選挙権、民主的に選ばれた議会、社会保障制度、人種差別の撤廃、奴隷制度の撤廃、労働者の権利、女性の権利、LGBTの権利、先住民の権利、教育を受ける権利、子どもの権利)も、かつては主張するだけで政府から弾圧され、否定され続けてきたが、数百年間にわたり、世界各地で起きた社会運動を通じて、人類が獲得し、共有し、発展させてきたものである。その意味で、社会運動は、その時代の社会の「鏡」であり、「窓」である。そして、「過去と現在を結びつける預言者」である ―と。

 今ほんの一握りの「普通の人たち」しか声をあげてないように見えても、その運動は潜在的な重要性を持っている― と、「社会運動の歴史の学び」へ誘っている。

 各分野の記述を要約する字数と力量はないが、例えば、女性たちの運動では、1789年7月フランス革命における「人権宣言」で謳われているのは、ブルジョアジーの男性市民のみであって、これに抗議する女性たち7,000人がベルサイユに行進し、その勢いは海を越えてイングランドに波及し、そしてアメリカ独立宣言運動へ。1904年には「国際女性参政権同盟」の設立、第2次大戦後のアメリカにおける公民権運動では1964年の「公民権法」に性差別禁止条項が盛られた。70年代の第2波フェミニズムの世界的なうねりは、国連を動かし、「国連女性の十年」設定と女性差別撤廃条約に結実し、「女性に対する暴力は人権侵害である」という地平を獲得して、「女性に対する暴力撲滅」が国連総会で可決された。

 差別と抑圧の解消を求めた女性たちの社会運動は、女性の人権だけでなく、子どもや障害者の人権を考える重要な論点を提供し、20世紀後半において、平和運動を含めて重要な役割を果してきた―と、展開されている。

 1990年代まで、社会運動は大規模でピラミッド型の組織からなっていたが、インターネットなどの発展により小規模のグループや個人が水平方向で結びつくネットワーク型の運動が可能となった。

 2010年「アラブの春」に刺激され学んだ若者たちは、世界各地で行動を起こした。スペインでは、銀行と金融機関が作り出した不動産バブルに対して、2011年5/15に50以上の都市でデモを行い、マドリードをはじめ100都市での広場占拠に拡大した=「15‐Ⅿ」運動。2011年の「ウオール街占拠」、2014年台湾の学生たちが中国との自由貿易協定締結に反対して1か月間国会を占拠した「ひまわり革命」、同年、香港での民主的選挙を要求して4か月間中心街を占拠=「雨傘革命」、日本では、安保法制反対運動において、若者たちが、国会前や首相官邸前を抗議の場として、新しい運動形態を提起した。それらの共通項は、新自由主義への対抗であり、「われわれは99%である」という認識である。

 これらの社会運動は、インターネットの影響が大きいとは言えるが、それがなかった19世紀の社会運動においても、国境を越えた相互作用や共鳴が見いだされる。労働運動においてしかり、平和運動においてしかり、本書は、広い分野にわたって社会運動の歴史を紐解き、絶望的な状況下でも勇気と希望をもてることに繋げている。(伍賀 偕子〈ごか・ともこ〉元「関西女の労働問題研究会」代表)