紀要論文でエル・ライブラリーに言及していただきました

  去年の5月に東京で開催された国際シンポジウム「ビジネス・アーカイブズの価値:企業史料活用の新たな潮流」の内容をまとめた『世界のビジネス・アーカイブズ』が出版されました。

 早速、本書の編者である公益財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センターより恵贈いただきました。記して謝意を表します。
また、本書第6章の訳者である古賀崇先生(京都大学→4月より天理大学)からは『国文学研究資料館紀要アーカイブズ研究篇』第8号(2012年3月)での論文の抜き刷り『ビジネス・アーカイブズをめぐる一考察:国際シンポジウム「ビジネス・アーカイブズの価値」(2011年5月)への参加を通じて』を頂戴しました。古賀先生の論文では、ビジネス・アーカイブズを補完するものとして、エル・ライブラリーに言及していただきました。昨年のシンポジウム参加記として書かれた本論では、ビジネス・アーカイブズに関する日本と海外との相違点について考察されています。
 また、このシンポジウムでは言及されなかった今後のさらなる論点として、「トータル・アーカイブズ」の概念に論究されています。簡単にいえば、「企業アーカイブズだけがビジネスの領域に関係するわけではない。労働などの観点も視野に入れるべきでは」という主張です。この点はこれまで当館が何度も申し上げてきたことと一致します。産業全体をとらえるためには、企業側の経営資料だけでは不十分であり、労働側の資料と揃えてこそ、全体図が見えてくる、というもの。たとえば会社史の記述から労使関係が抜けておちていれば、読み応えに欠けます。きちんと労使双方の歴史に目配りしてこそ、企業経営の全体が見通せるというものです。
 古賀先生が紹介されている「トータル・アーカイブズ」という考え方は、組織内アーカイブズが所蔵する記録と組織外アーカイブズ(=収集アーカイブズ)が所蔵する記録を合わせて見ていくことが、その組織の活動を立体的に考察することにつながる、というものです。古賀先生はここからさらに論を進めて、企業(組織)の視点から集められた記録と、それ以外の視点からの記録を合わせていくことが有益ではないか、と論じておられます。
 具体的には、企業アーカイブズに加えてエル・ライブラリーのような「労働アーカイブズ」と西淀川・公害と環境資料館(エコ・ミューズ)のような「被害アーカイブズ」の資料を加えることによって、企業活動が多角的ににとらえられる、という主張です。これらは企業活動にとって「負の遺産」と見なされるかもしれませんが、「企業および社会にとっての『未来への教訓』を認識し広く共有することにもつながるのではなかろうか」と結ばれています。
 本論の大きな二つの柱のうち、特に当館に関係のある2番目の視点についてのみ詳しく紹介させていただきました。数ある労働アーカイブズのなかでも特に当館を例示していただいたことを光栄に存じます。古賀先生、ありがとうございました。

 なお、この国際シンポジウムの報告書である『世界のビジネス・アーカイブズ』については専門図書館協議会の機関誌に紹介記事を執筆予定ですので、内容詳細は後日に回し、今回は目次のみ以下に拾って紹介に代えさせていただきます。(谷合)

目次

1章 より幅広い視野で―歴史的事実に基づく広報活動への支援
2章 フランスのビジネス・アーカイブズ、経営に役立つツールとして―サンゴバン社の事例
3章 日本における伝統産業とアーカイブズ―虎屋を中心に
4章 アンサルド財団―アーカイブズ、トレーニング、そして文化
5章 アーカイブズを展示することによる商業上の効果

6章 資産概念の導入と中国における企業の記録管理へのその効果
7章 ビジネス・アーカイブズに関する全国的戦略(イングランドおよびウェールズ
8章 インド準備銀行アーカイブズ―歴史資源そして企業資産

9章 誇りある遺産―買収・統合後の歴史物語の重要性
10章 企業という設定のなかで歴史を紡ぐ―ゴードレージグループのシナリオ
11章 合併の波の後―変化への対応とインテーザ・サンパオログループ・アーカイブズの設立
12章 アーカイブズに根を下ろして―IBMブランド形成に寄与する、過去の経験という遺産

13章 企業のDNA―成功への重要なカギ
14章 会社の歴史―化学企業にとっての付加価値
15章 地方史か会社史か―多国籍企業海外現地法人アーカイブズの責任ある管理