エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『電話交換手はなぜ「女の仕事」になったのか ~技術とジェンダーの日独比較社会史~』

 

石井香江 (ミネルヴァ書房/2018年5月/A5判432頁)

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 著者は、同志社大学グローバル地域文化学部准教授で、社会学博士。

 本書は、電話交換が技術発展により、男性から女性の仕事へ変わっていく過程を日本とドイツの比較から実証して、男と女の仕事の棲み分けを作り上げた社会の一側面を解き明かしている。膨大な日独の一次史料からの実証と分析による労作で、相当分厚いものだが、電信・電話業務の労働実態やそれに携わる人たちの息遣いが伝わるようで、惹き込まれる書である。

 近代になって女性の労働力はいかにして労働市場に投入されたのか。日本に電話が輸入されたのは、1877(明治10)年で、1891年9月には逓信大臣の署名による「電話交換規則左ノ通之ヲ定ム」が発表され、これが、女子職員採用制度の創始とされている。その規則から、当時の女性が置かれていた位置を垣間見ることができる。例えば、採用対象は「夫なき15~25歳の女子」であり、「男性の身元保証人を必要とする」等である。女性の労働市場参入については大いなる異論が出されたが、この規則により、1904年より、電話交換業務が「男子本位」から「女子本位」に傾斜するのである。

 「性別役割分業」観は、生産と再生産が分離し、「公」と「私」の領域がかたち作られる近代社会の形成にとって不可欠なイデオロギーであり、女性を近代国家の「国民」として統合していくうえで重要な思想であったが、働く女性が増えていくという歴史の進展が、この思想を打ち破っていくのである。

 本書のキー概念は、「電信・電話のジェンダー化」で、「性別職務分離」がどのように形成されたかの検証であるが、著者は、本質主義的に男女の「違い」を前提にするのではなく、「違い」が制度・実践・言説によって下支えされるプロセスに注目している。

 1932年大阪中央電信局では1,000名を超える男性に混じり、200名近い女性が通信事務員として働いていたが、彼女たちの仕事は「やさしい仕事」とされていて、男性=「技能」を有する技術、女性=「技能」を有しない技術というジェンダーステレオタイプが作用していた。技術はジェンダー化されていたのである。

 男性の電信技士が生み出した「モールス文化」「電信マン気質」の紹介も興味深く、この職場文化の存在が、職業病(=けんしょう炎)の存在も、「手くずれ」として「個人化」され、隠ぺいされてきたと指摘されている。

 終章において、「電信・電話のジェンダー化」は3段階に分けて説明されている。第1段階は、新技術の導入を一つの契機として、女性が労働市場に参入する必要性から、それに異議を申し立てる段階(新旧のジェンダー秩序の混合期)

 第2段階は、旧来のジェンダー秩序の解体と再編、電信=男の仕事、電話=女の仕事という「性別職務分離」が形成される段階(日独間で強度や持続期間は異なるが)、

第3段階は、性差に関する<知>の再編成と新たな秩序化の段階である―と。

 まさに、ジェンダー史と技術史の融合という視点から労働を解く労作である。

 さらに、ドイツと日本の事例に注目する比較社会史の方法により、一国史的な枠組みでは見えてこない観点を提出している。ドイツにおける立証も、豊富な史料が紹介されているが、字数と筆者の能力の関係で言及は控えさせていただく。(伍賀偕子〈ごか・ともこ〉:元「関西女の労働問題研究会」代表)

大阪大空襲の記録の公開に向けて

 3月13日は大阪大空襲の日です。 エル・ライブラリーでは、大空襲の被災者運動資料を保管し、市民団体「大阪空襲被災者運動資料研究会」に活用していただいています。「朝日新聞」大阪本社版3月12日夕刊に記事が掲載されました(写真では、著作権保護のため本文を読めないように加工しました)。

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 下記リンクでデジタル版全文が読めますが、有料記事なので一部しか読めない方については、会員登録されるか図書館などでお読みください。

 大阪本社版では夕刊の一面トップ記事として扱われ、大きな反響を呼びました。すでに何本も電話などでお問い合わせをいただいていますが、この資料については夏の公開に向けて、大阪空襲被災者資料研究会が現在データベース(資料リスト)を作成中です。データベースが完成次第、資料そのものも閲覧していただけるように図りますので、今しばらくお待ちください。

 このブログでも公開状況については随時お知らせしていきます。

 

digital.asahi.com

新着雑誌です(2019.3.14)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労政時報 3968号 2019.3.8 (201327160)

ビジネスガイド No868 2019.4.10 (201327228)

労働法学研究会報 No2687 2019.2.15 (201327194)

労働経済判例速報 2369号 2019.3.10 (201327251)

労働法律旬報 1931号 2019.3.10 (201327327)

旬刊福利厚生 No2266 2019.2.26 (201327285)

賃金と社会保障 1723号 2019.2.10 (201327293)

労働基準広報 No1987 2019.3.11 (201327350)

労働法令通信 No2513 2019.3.8 (201327384)

 

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七転八倒・七転八起―なかまユニオン20年史―

 なかまユニオン(2018年12月/ 私家版/A判80頁) 

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 本書は、昨年9月に結成20周年を迎えた「なかまユニオン」の軌跡をつづり、これからの希望を語る、手作り感あふれる記念誌である。

 1人でも誰でも入れるコミュニティユニオンは、企業の壁を越えたその運動に、企業内労組運動の影響力が落ち込んでいる今、注目が集まっている。

 結成20周年を越える労働組合はそれほど珍しくはないが、コミュニティユニオンの場合は、事務所・専従・財政・継承者問題等、いくつもの困難を抱え、その持続性が問われている中、傍観者的には語れないが、その20年の軌跡に学びたいと思うところである。

 委員長挨拶や顧問の回想から、その成り立ちを推察すると、当ユニオンの源流は、ナショナルセンターの総評がまだ健在であった頃、所属する労働組合の強化をめざして、「職場に労働組合を」という合言葉を掲げて、毎月例会を重ね、夏には「働く青年の全国交歓会」(全交)を開催していた活動家集団で、1996年頃、「誰でも一人でも入れる労働組合」の結成検討が始まり、労働相談から取組み、「ユニオン活動基金」の出資を募って、98年にユニオン発足に至った―と述べられている。

 「労働相談活動」を通じて組合員を増やしてきたが、「労働相談で労働者の個別の問題を解決するのが、私たちのゴールではなく、非正規労働者や中小企業の未組織労働者の集団的組織化が目標です。これは道半ばであり、模索を続けています」と述べられている。

 結成時から年次毎の記録には、相談件数、組合員数(脱退も含めて)が記されていて、20年目には、相談件数791件、組合員数274名(加入44人、脱退23人、除籍9人)と明記、苦悩の歩みがうかがい知れる。21年目では「来年度までに300人、5年以内に500人の組合建設」の目標が語られている。また、その歩みを追っていくと、「ネットワーク会員」というのもあり、直接加入ではないが、ユニオンに心を寄せて拠金で連帯するという工夫もされているようである。

 20年間に取り組んだ主な労働争議を記録から抜き出すと、パナソニックPDP偽装請負事件、長浜キャノン日系ブラジル人解雇事件、日本基礎技術試用期間解雇事件、パチンコ店パワハラ解雇事件、ひめじや解雇事件、A社セクハラ事件等、一つ一つ追う字数はないが、幹部請負の団交に終始せず、ありとあらゆる大衆運動で争議支援の輪を広げる努力が重ねられている。大阪市政に対するたたかいでは、2005年の「カラ残業」不当処分撤回闘争、保育所民間委託反対闘争、橋下市政の職員統制(憲法違反の職員アンケート、入れ墨アンケート拒否処分)との対決等、粘り強い持続的な運動を重ねている。そして今、派遣法の「労働契約申込みみなし制度」にもとづく偽装請負告発=全国初の裁判闘争を闘っている東リ偽装請負争議を全国発信している。

 当ユニオンの特徴は、一人ひとりの組合員が主人公の組合を作ることともに、「平和運動や国際連帯をめざす活動」に力を傾けて、組合員の共通体験とすることで、組合員の連帯意識を高めてきたことにある。とりわけ、韓国の労働者の闘いに励まされて、恒常的な交流を深めている。脇田滋・元龍谷大学教授が寄せられた「連帯メッセージ」には「なかまユニオンは、韓国の先進的な運動と最も活発に交流している労働組合である。不安定労働撤廃連帯、青年ユニオン、希望連帯労組、なめくじユニオンなど、韓国で先頭に立って闘っている労働団体や市民団体などと幅広く生き生きとした交流をかさねている」と評価されている。そのことを立証するように、本書に寄せられた数多くの「連帯メッセージ」の中で、韓国労働運動・市民運動リーダーや有識者からのが際立っている(8本)。

 「連帯メッセージ」でもうひとつ印象深いのが、ユニオンと共に闘ってきた弁護士6名から寄せられた言葉である。法廷闘争の強い味方である優れた弁護士たちが、ユニオンの大衆運動から得たことを語っている部分に、共感を覚えた。

 コミュニティユニオンの抱える課題は、日本の労働運動の将来に直結するものであり、本書から学ぶことは多く、労働運動史上、貴重な記録だと思う。(伍賀偕子:「関西女の労働問題研究会」元代表

新着雑誌です(2019.3.6)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

賃金事情 No2779 2019.3.5 (201327129)

労務事情 No1379 2019.3.1 (201327152)

労政時報 3967号 2019.2.22 (201327269)

企業と人材 No1073 2019.3.5 (201327061)

人事実務 No1194 2019.3.1 (201327095)

労働経済判例速報 2365号 2019.1.30 (201327186)

労働経済判例速報 2368号 2019.2.28 (201327210)

労働経済判例速報 2367号 2018.2.20 (201327244)

労働判例 No1192 2019.3.1 (201327277)

労働法律旬報 1930号 2019.2.25 (201327103)

労働基準広報 No1985 2019.2.21 (201327079)

 

詳細な目次はこちら

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近江絹糸争議の手記を翻刻公開

 みなさんは1954年に起きた、労働運動史上に名高い「人権争議」と呼ばれた近江絹糸労働争議をご存知でしょうか。

 この争議及びその後の近江絹糸労働組合の活動を知る手掛かりとなる一次資料「辻保治氏旧蔵資料」を、当館では1500点以上所蔵しています。その資料整理はいま着々と進めているところですが、今回は、これとは別に、近江絹糸富士宮工場で働いていた女性の手記を頂きました。 

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 この手記『その時19才の私は!!』は手書きで書かれたものを印刷製本してあり、国学院大学の本田一成先生が発掘されたものです。私家版として発行された同書について、本田一成先生が翻刻されたうえで解説も執筆されています。

 エル・ライブラリーではその翻刻全文と本田先生の解説をpdfファイルで公開しました。どこの図書館にも所蔵が確認できないレアもの資料です。下記リンク先からご覧ください。

 http://shaunkyo.jp/webdatabase/sonotoki19sainowatashiha.html 

 なお、原本は当館にて閲覧可能です。

・その時19才の私は!! こみきみこ[著]  [2010.6]  44p ; 26cm 

新着雑誌です(2019.2.27)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは閲覧のみです。貸出できません。

賃金事情 No2778 2019.2.20 (201327145)

労務事情 No1378 2019.2.15 (201327111)

労政時報 3966号 2019.2.8 (201327046)

労働法律旬報 1929号 2019.2.10 (201327087)

旬刊福利厚生 No2265 2019.2.12 (201327178)

月刊人事労務 360号 2019.1.25 (201327202)

地域と労働運動 221号 2019.1.25 (201327236)

 

詳細な目次はこちら

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