エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『アートと法』

著作権入門ノート『アートと法』−表現の自由・自主規制・キャラクター
小笠原正仁著 2015年7月 阿吽社発行 A5版 300頁

 この本は、「おわりに」で書かれているように、大阪芸術大学で開講されている「法と芸術」という講義のためのテキストで、芸術表現を学ぶ学生のために書かれたものである。本書の前身である『法と芸術―著作権法入門』の刊行から15年、その間著作権法についての判例が増え、改正も行われてきている。また、表現の自由についてもマスメディアの話題にのぼることも多くなるなか、今回、内容の改定とともに、タイトルも一新して出版された。巻末には、80ページにわたって、著作権法(抄)および著作権関連団体・機関一覧が掲載されており、非常に参考になる。
 著者は、本書のテーマである著作権法について、芸術表現による作品世界を豊かにし、文化の発展に寄与するものであるので、この法の目的や意義や効果、さらには法律順守(コンプライアンス)の意義を学んでほしいと述べている。
 一方、「そのような抽象論ではいくら想像力を働かせても、話が大きすぎてイメージがわきませんね。日常的な具体的問題となって初めて、私たちはそれらの法に触れるといってもいいようです。(中略)著作権法も同じです。条文の一つ一つが具体的な課題を担っています。」(「1 法と社会の一コマ」より)とも述べている。

 そこで、この法律をより身近なものになるよう、著作物や著作権者についての定義にはじまり、できるかぎり具体的な事例に即して説明をされている。本書の内容は18の項目からなり、大きく分けて、著作権の概要についての説明、判例や法改正などから見える社会の課題、表現の自由とそれをめぐる問題、著作権Q&Aからなっている。

 昨今、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の大筋合意がなされ、その中には著作権に関する条項も多く含まれているという。それに伴い、文化庁著作権法の改正にむけた準備を進めているという。中でも影響が大きいと見られているのが、著作物の保護期間の延長と著作権侵害非親告罪化(現行は権利者側の告訴が必要な親告罪)で、これらについては「著作権法の根幹に関わる」と著者は本書の「はじめに」で述べている。広く市民生活にも関わる著作権法改正が、様々な表現活動の委縮や自己規制につながらないよう、慎重な検討や議論を願う。
 また、本書「17 放送の表現の自由と自主規制」では、昨今の総務大臣発言にみられる放送法についての記述もあり、興味深い。(谷垣笑子・元公共図書館職員)

 本書の具体的内容は、下記の通りである。
1 法と社会の一コマ
2 著作権法の構成―知的財産権法との関係
3 著作
4 著作物いろいろー著作物の例示
5 キャラクター
6 著作権と商標法
7 二次的著作物・編集著作物・データベースの著作
8 著作
9 著作者人格権・みなし侵害
10 著作財産権
11 著作権の制限
12 保護期間
13 著作隣接権
14 著作権図書館サービス
15 表現の自由と規制
16 自主規制
17 放送の表現の自由と自主規制
18 著作権Q&A