エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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「1968」を編みなおす 社会運動史研究2

 当館特別研究員・黒川伊織の論考も掲載されている『社会運動史研究』2号を紹介します。

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「社会運動史研究」の第2号として、「1968」を編み直すという特集構成で刊行された。1968年は社会運動の高揚が同時多発的に見られた年であるが、編者は次のように述べる。 

 「1968」の言葉が指し示そうとする出来事は、確かに歴史的・社会的に重要である。しかし、いささか粗雑な「1968」のイメージは、その重要性を理解するためにこそ、いったんほどいてみるべきだ。運動史のディティールに立ち返って再検証し、これまでのイメージや理論を書き換えていくことが、1968年から半世紀以上が経過した今だからこそ、必要だと私たちは考えた。 

 これまでマス・メディアでは全共闘運動を主動していた党派的動きが多く語られていたが、ノンセクトの学生の参加によって運動が活性化し、可能性を見いだしたことも重要である。そこには「運動の理論」だけではとらえられない視座がある。

 嶋田美子氏の「矛盾の枠、逆説の華……名づけようのない1960年代史をめざして」は思想・文化・芸術といった従前の運動史的視線では見えにくい側面をていねいにとりあげている。さらに68年という「地点」ではなく、1969年2月創設の「現代思潮社美学校」の流れを60年代から70年代までの流れをフォローしていく。

 また、山本義隆氏の「闘争を記憶し記録するということ----『かつて10・8羽田闘争があった』および『東大闘争資料集DVD増補改訂版』出版に際して」は、東大全共闘のたたかいの後も、その裁判闘争にかかわり、また東大闘争の記録を保存し残すための地道で厖大な作業の集大成のいきさつを述べたものである。山本氏は「当事者」という枠を越えて、当時を振り返り、第一次資料収集の作業を続け、膨大な再検証の努力を重ねた。山本氏は資料を後世の人たちに託すのではなく、自らを相対化し、客観性をもたせることに注意を払って、これらの資料を残すことに努力した。

 他に山本崇記氏は「運動的想像力のために」で京都市東九条地域でのマイノリティ運動に焦点をあて、その歴史を追究している。阿部小涼氏は新宿ベ平連で闘いを繰り広げた故古屋能子氏の活動をトレースし、ジェンダー・イシューの重要性を提起している。

 本書の論考は、運動というものが主導者がいて、それに共感していく人たちが連動していくことではなく、お互いの関係性なり共同性が形成されていくことが重要なのではないか、ということを掘り下げていると思う。(森井雅人 当館ボランティア司書)

 <書誌情報>

「1968」を編みなおす 社会運動史研究2

編者:大野光明 小杉亮子 松井隆志 2020年4月 新曜社

<目次>

 特集 「1968」を編みなおす
運動的想像力のために ──1968言説批判と〈総括〉のゆくえ  山本崇記
矛盾の粋、逆説の華 ──名づけようのない一九六○年代史をめざして  嶋田美子
拒否する女のテクストを過剰に読むこと ──古屋能子の八月沖縄闘争  阿部小涼
“1968”の学生運動を学びほぐす ──東大闘争論の検討  小杉亮子
闘争を記憶し記録するということ ──『かつて10・8羽田闘争があった』および『東大闘争資料集 DVD増補改訂版』出版に際して  山本義隆

 インタビュー 古賀 暹さん
『情況』前夜──「1968」を準備した六〇年代前半期  聞き手 松井隆志
 資料 『情況』(第一期)総目次 上(創刊号一九六八年八月~53号一九七二年一二月)
戦後シベリア抑留者運動史概観 ── 一九七〇年代からの展開を中心に  富田 武
 インタビュー 徐 翠珍さん
「人間としての誇り」にもとづく闘い ──在日中国人・徐翠珍氏の生きざま 聞き手・解題 大槻和也


小特集 運動史とは何かⅡ 『社会運動史研究1』 合評会コメント
運動に関わり続けた半世紀を踏まえて  加藤一夫 
関係を編み上げる〈編集と運動〉  天野恵一
「マッチョな社会運動」の「終わりのはじまり」 ――社会運動の「1968年」  黒川伊織
異なるアプローチが拓く社会運動史  伊藤綾香
社会運動アーカイブズ インタビュー 平野 泉さん(立教大学共生社会研究センター・アーキビスト)「市民社会の財産を守り、活かしていくために」聞き手 大野光明・松井隆志

  書 評
葛城貞三 著 『難病患者運動』  松尾隆司
上原こずえ 著 『共同の力』  大畑 凜
浅倉むつ子・萩原久美子・神尾真知子・井上久美枝・連合総合生活開発研究所 編著
   『労働運動を切り拓く』  牧野良成
安藤 丈将 著 『脱原発の運動史』  柴垣顕郎

編集後記
なぜ私たちは『社会運動史研究』を始めるのか
『社会運動史研究3』予告・投稿募集
執筆者紹介