大野光明・小杉亮子・松井隆史 編(新曜社 2022年7月 A5版200頁)
本書は、2018年12月に社会運動史研究の「新しいメディア」をめざして立ち上げられた『社会運動史研究』の第4号で、今回は、「越境と連帯」をテーマにした特集である。
「権力を持たない市政の人びとが社会を動かすためには、他者と手をつなぎ、力をつくり出す必要がある」(p.6)。
「越境と連帯」は社会運動にとって、本質的で普遍的なものである。この特集では、日本の「戦後」、正確に言えばアジア太平洋戦争後の、特に冷戦期における越境と連帯の運動史を対象とした論考やインタビューが掲載されている。
3人の編者による冒頭の総論では、歴史的系譜を振り返りながら、近代における資本主義と国民国家による苛烈な暴力のなかで人びとがそれに抵抗し越境と連帯の実践を育んできた背景が述べられている。そして、「戦後」の日本社会は「戦場」や「占領」を外部化し、植民地主義を否認・忘却しながら、「復興」と経済成長、そして「平和」――それが現実とかけはなれた幻想としてあったとしても――へと一国主義的に閉じていった、と概括されている。その一国主義的に閉じた日本社会のありようを批判し、その周辺や外部で生じる暴力を問題化しつつ、冷戦のもとで引かれた境界線を問うというかたちで運動は展開していった、と。
一つひとつの作品を紹介することは字数からも筆者の力量からも出来ないので、目次5番目の全(チョン)ウンフィの論考について、編者が評している部分を以下の通り要約する。
全さんの論考は京都府宇治市の在日コリアン集住地区・ウトロで1980年代に展開された居住権運動を主題としている。ウトロの居住権運動を支援する日本の市民運動が、ウトロ地区の住民と出会い損ねていたことに注目している。本論考では、人びとが国家の内側での越境と連帯をようやくにして発見していった歴史を描き、「戦後」日本の運動史が越境と連帯を見事達成してきたかのような予定調和の物語への抵抗として、読むことができる。
日本人支援者が不就学の「在日」一世の「非識字」に出会い、構造的な差異に気づいていく過程が明らかにしているように、市民が地続きの朝鮮の民衆に出会うまでについやしてきた過程がリアルに追跡されていることに、深く学ばされた。 (伍賀 偕子〈ごか ともこ〉)
<目次>
◆越境と連帯の運動史—日本の「戦後」をとらえかえす(大野光明・小杉亮子・松井隆志)
◆アメリカ人留学生のベトナム反戦運動 ――太平洋を横断する運動空間のなかの沖縄(大野光明)
◆反アパルトヘイトの旅の軌跡 ――「遠くの他者」との連帯のために(牧野 久美子)
◆インタビュー 武藤 一羊さん
党・国家に依らない民衆(ピープル)のインタナショナルへ
――1970年前後の経験からたどる〈越境と連帯〉の運動史 聞き手:大野光明・松井隆志
資料『解放闘争国際情報 連帯』総目次(第1号1971年5月~第4号1973年11月)
◆地続きの朝鮮に出会うにほんじん
─ウトロ地区と向き合った京都府南部地域の市民運動の軌跡 全 ウンフィ
◆インタビュー 内海 愛子さん
在日朝鮮人問題を出発点に、日本の「帝国主義」を問う
――日本朝鮮研究所、アジアの女たちの会の時期まで 聞き手:松井 隆志
◆インタビュー 浜田 和子さん ノリス恵美さん イルゼ・レンツさん
ベルリンの街で女が集まったら
――1980~2020年代「ベルリン女の会」の歩み 聞き手・解題:小杉 亮子
◆インタビュー 河野 尚子さん
ソーシャルワーカーとして、JFCとその母親たちに寄り添う
――マリガヤハウス・河野尚子の活動経験から
聞き手・解題:小ヶ谷千穂・原めぐみ・大野聖良
◆社会運動アーカイブズ インタビュー 古屋 淳二さん(アナキズム文献センター)
運動のための本棚をめざして 聞き手:大野光明・小杉亮子・松井隆志
◆書 評
・田中 宏『「共生」を求めて』 高谷 幸
・猿谷弘江『六〇年安保闘争と知識人・学生・労働者』 長島祐基
・法政大学大原社会問題研究所・鈴木 玲 編著『労働者と公害・環境問題』 仁井田典子
・アリス&エミリー・ハワース=ブース『プロテストってなに?』 濱田すみれ
編集後記
なぜ私たちは『社会運動史研究』を始めるのか