エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『信仰の灯は永遠に : 日本福音ルーテル池田教会と吉田康登牧師の足跡 : 浦幌町立博物館企画展図録』

『信仰の灯は永遠に : 日本福音ルーテル池田教会と吉田康登牧師の足跡 : 浦幌町立博物館企画展図録』日本福音ルーテル帯広教会記念誌編集委員会編・発行、2021.4 80頁

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 本書は、2019(令和元)年11月に北海道の浦幌町立博物館で開催された企画展「信仰の灯は永遠に:福音ルーテル池田教会と吉田康登牧師の足跡」の図録(記念誌)である。第Ⅰ部では企画展で紹介した内容について、第Ⅱ部では池田教会、釧路教会に関わった方々の教会の思い出、第Ⅲ部は資料編として論考と道東3教会の年表や変遷をまとめている。

 以下、本図録の内容を簡単に述べる。

ルーテル教会とは≫

 1517(永正14)年にマルティン・ルター宗教改革によりドイツで誕生したルーテル教会は、ドイツだけでなく北欧に広がり国民協会となった。その後、アメリカ大陸に移民と共に渡り、更にアジア、アフリカ、ラテン・アメリカなどに至って今日全世界に存在している。

 日本におけるルーテル教会の最初の礼拝は、1893(明治26)年の復活祭(イースター)にアメリカの南部一致シノッド(教会会議)から派遣された二人の宣教師により九州の佐賀で行われており、2021(令和3)年の復活祭で宣教128年となる。

 現在の日本福音ルーテル教会(以下、JELC)は1963(昭和38)年に形成され、これまで個別には対処できなかった全国レベルの伝道を展開しようという試みとして「全国レベル開拓伝道計画」を進めてゆく。1966(昭和41)年、北海道、八王子、岡山、松山、北九州の5か所が候補地とされ、具体的な場所の選定は各部会の伝道担当者と本教会伝道担当者によって進められた。

≪池田教会の足跡≫

 この全国レベルの宣教計画とは別に、敗戦まもない浦幌村(当時)で元牧師と地域住民による家庭集会、聖書講義という自発的集会から生まれたのが池田教会なのである。 

 吉田康登牧師は1928(昭和3)年に按手を受け牧師として働いていたが、戦時中に当時働いていた神奈川教会を戦火で失ったのち、職を辞し開拓団長として十勝の浦幌に入植した。開拓者組織の長として、自らの過酷な未墾地開墾作業や極限に近い寒地での開拓者生活も顧みず、一緒に疎開した同胞や開拓農民の営農と生活を守るために心を配り、仲間を思いやる生きざまは、厚い信頼と期待となり開拓者組織としてのリーダーとして、全精力を尽くされた方であった。また、ふるさと九州から遠く離れた地において、出会った同郷の人々や、土地の人々との交流を重ねるうちに広がっていく人脈が家庭集会の始まりとなり、やがて「より多くの町の人々に聖書に接する機会を」との願いから定期的な活動をされ、その熱心さは町の有志の心に響き、教会建設用地が寄付されることとなった。一方で、地域の人々の熱意と信仰によって、1956(昭和31)年10月に最初の牧師館兼礼拝堂である池田伝道所が発足、11月に吉田牧師が居住を開始され、1957(昭和32)年の全国総会にて池田伝道所の働きと吉田牧師の復職が正式に承認された。1960年代に入ると新しい教会堂と牧師館の建築計画も立てられ、1964(昭和39)年に新しくなったJELC第一回全国総会において池田教会は第二種教会としての承認を受け、建築計画も承認され1968(昭和43)年7月の新礼拝堂献堂式へと続いた。以後吉田牧師は1969(昭和44)年に定年引退されるまで、熱心に福音を語り信徒と共に教会の礎を築いた。

 時が経ち、信徒数の減少と牧師不足に伴い10年の歳月をかけて話し合った結果、道東3教会の内の1つである釧路教会が2018(平成31/令和元)年11月24日に、そして2019(令和元)年8月25日には池田教会は帯広へ統合され、姿を消すこととなった。教会への信仰の灯は帯広教会へと移り、そして永遠に灯り続けている。

 浦幌町立博物館の、池田教会の足跡を後世に残したいという願いは、本書を通して充分伝わってきた。その中でも、信徒の方々から寄せられた数々の写真が印象的で、教会を大切に思う人々の心が伝わってくる一冊である。(実習生 M.H)

 

※今回の寄贈本紹介は、大学司書課程の学生さんに書いてもらいました。M.Hさんは図書館実習として5日間当館でさまざまな業務を体験し、最後にこの文章を書くという課題に挑戦しました。9月17日の記事でも彼女が作った展示を紹介しています。ぜひ合わせてご高覧ください。https://l-library.hatenablog.com/entry/2021/09/17/204531

よく頑張りました!(館長・谷合)