エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『ものがたり 現代労働運動 3』

ものがたり 現代労働運動 .3 / 高木郁朗著 明石書店 2023.7

 今回の寄贈本紹介は、当館で5日間の「図書館実習」を経験した学生さんが書いてくれました。これも実習の仕上げの成果です。大変手際よく内容をまとめたうえで、最後に短く本人の感想もつけてあります。

 とても読みやすい本なので、お薦めです。では詳細は以下の紹介文をお読みください。

 本書は、日本国内において長年にわたって経済と生活が低迷しているという現状に対し、そのような現状が発生した過程を問題意識として設定している。さらに、その問題意識に対して、特に1999年から2009年に及ぶ約10年間に焦点をあて、労働運動が現状に至る過程においてどのような役割を果たしたのか、あるいは果たさなかったのかという点を論点として執筆されている。

 以下、本書の内容を簡単にまとめる。

第1章 厳しい雇用情勢のもとでの労働組合(1999年末~2000年末)

 バブル崩壊後の金融機関の危機状態に加え、アジア通貨危機の発生により経済成長が停滞した。正規従業員が減少する一方、非正規雇用比率の増大が進行した。こうした情勢に対し、個人加盟型の労働組合の成立が大きな役割を果たした。賃上げ闘争では賃上げ率が年々低下する傾向が続き、勤労世帯の実収入が大きく低下した。連合は年金制度改革において自民党と対立し、民主党との結びつきを強めた。

第2章 ニュー連合の模索(2001年~2003年はじめ)

 春闘において、トップとなる大企業の賃上げ要求幅が他企業における要求幅へと波及をしていく上から下への賃上げ構造から、中小規模の企業が主体的に賃上げ要求を設定する「下支え」「底上げ」型の賃上げ構造へと転換したものの、賃金低下傾向は継続した。このような構造変化が、約20年にわたって定着する「安い日本」を形成する重要な要素となった。

第3章 多様な労働運動への展開(2003年~2005年中盤)

 非正規雇用者の増加によって雇用者数自体は増加傾向にあったものの、労働組合組織率および連合における組合員数の減少が深刻化した。このような状況下において、大企業組合でのストライキをともなうような争議は皆無であった。一方で、労福協や退職者連合による活発な活動が成果をあげるなど、新展開もみられた。グローバリゼーションにともなう日本企業の外国進出により、海外での争議も発生するようになった。

第4章 小泉内閣の政治と規制改革への対応(2003年~2005年中盤)

 小泉内閣によって市場万能主義と「安上がりの政府」をめざす「構造改革」が展開された。労働と社会保障の分野においても労働時間や労働者派遣の分野における規制緩和や、年金制度・保険制度改革などの大きな改革が実施された。連合や各構成組織はこれらの方針に対し反対活動を展開し、いくつかの政府提案へ重要な修正を加えたものの、全体として「構造改革」の推進を本格的に阻止することはできなかった。

第5章 民主党の躍進と労働運動(1999年末~2005年中盤)

 連合による組織的な支持の影響も受け、民主党が議席数を伸ばした。民主党が国会において連合の政策要求を反映し修正をさせるなど、連合にとって大きな成果となった。一方で、参議院選挙において組合員数に対する組合推薦候補者の氏名を書く比率である結集率は全体的に低調であった。また、民主党内における保守層から労働組合批判が出るなど、連合と民主党の関係は不安定なものであった。

第6章 労働運動のつぎの時代に向けて(2005年終盤~2008年中盤)

 連合によって新たに設立された非正規労働センターの活動へ地方連合会でも多くの組織が参加し、賃上げ闘争における「底上げ」「下支え」活動のよりどころとなった。地域におけるパート共闘、中小共闘、有志共闘などの活動も活発化した。2007年の国会では労働に関する多くの法案が提出され、労働者をとりまく環境の変化に対応した法案の修正に成功した。

終章 社会運動の広がりから政権交代へ(2005年終盤~2008年中盤)

 派遣労働者や、生活苦や住居問題に直面する当事者たちの声や運動の広がりを受け、各労働組合によって非正規労働センターの設置やパート労働者の組織化の展開がおこなわれた。「ワーキングプア」が社会問題となったことを背景としては、個人参加による反貧困ネットワークが結成された。リーマンショックによる大幅な失業率の低下に対しては新たなセーフティーネットの構築が進んだ。また、2009年実施の衆院選において自民党から民主党への政権交代が実現し、労働運動や社会運動が拡大していくことが期待された。

 

 私も実際に本書を読ませていただいたが、日本における長年の経済停滞への各労働組合を中心とした労働運動の関りかたに焦点を当て、時系列順に解説がなされている著作であり、初学者の私でもわかりやすく読み進めることができた。産業構造の変化にともなう労働運動のあり方の変容や、労働運動の積み重ねが日本経済全体に与えてきた影響の重要性を理解することのできる一冊であると感じた。(実習生K.I)