エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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教職員組合運動史研究会(TU研)10年のあゆみ

『【特集】教職員組合運動史研究会(TU研)10年のあゆみ』(戦後日本の教職員組合と社会と文化 ; その6)
布村育子編集  日本大学文理学部広田研究室  2024年5月
154頁 30cm

 教職員組合運動史研究会(TU研)は、「労働運動を軸とした日教組像」研究の集大成として『歴史としての日教組上・下巻』(名古屋大学出版会/2020年)を刊行しているが、本書は、2012年発足から10年余のTU研活動のあゆみを丁寧に跡づけている。

<構成と主な目次>

Ⅱ部構成の第Ⅰ部(特集)は、研究会メンバーの「座談会」を通して、10年の歩みの振り返りと、それに付随する資料編、22名のエッセイによるTU研への自らの関わりと思いである。第Ⅱ部は、一般投稿論文として、「日本教職員組合の国際労働運動―WCOTPの活動を中心として」と、「鹿児島県教職員組合所蔵史料について」であるが、第Ⅰ部が、154頁の内の130頁を占めているので、第Ⅰ部を中心に紹介したい。

<「日教組」の研究をいつ、誰が開始しようと企画したのか>

発足を提起した広田照幸代表は語る――日教組の非公開の史料が山ほどあり、その保存と整理の必要性を感じたことと、民主党政権下で、自民党がどんどん右に振れていって、日教組に対して右翼的言説が流布される中で、過去の日教組の運動の実像について研究しなければならないと思ったのが、動機です――と。

呼びかけた研究者は、――まず、若い世代、そして日教組と直接のつながりがない人や薄い人、また、全教(=全日本教職員組合)系の人にも入ってもらいました。専門分野についても、教育社会学、教育史、教育行政学の専門の人、教育学の外側にいる専門家にも声をかけました。若い世代では、日大の若い人にも声をかけました――と。

<『日教組三十年史』の勉強から「400日抗争」を最初のテーマに>

「教育学研究者の中では、日教組の組織について理解されていない」という認識(広田代表)から、基本的な理解を共有するために、『日教組三十年史』と『槇枝元文回想録』をテキストに、指定箇所のレジュメを各自が作成してほぼ毎月共同学習を重ねる「準備勉強時期」(TU研活動の年表)に1年をかけている。それを踏まえて、個別に何をやりたいかを全員が報告し、「労働運動チーム」と「教育運動チーム」に分けて個別研究を進めた。

 そして研究のスタートは、「400日抗争」をテーマにした。広田代表によれば、――「400日抗争」は、全一日スト(1974年)の時代と、日教組の分裂(1989年)や文部省との和解(1995年)の時代との間における路線をめぐる内部対立だから、それを理解しないとそれ以前の日教組も以降の日教組も歴史的に位置づけられない――とのことだった。

<史料整備とインタビュー調査をめぐって>

 日教組事務所のある日本教育会館の5階以外にも、地下倉庫に未整理のまま山ほどある史料の整理と保存も、TU研の重要な柱であった。2013年から史料の整理とデジタル化、件別索引の作成に着手した。もちろん日教組との意見交換も踏まえて、膨大な作業を、研究活動と並行して行った。「座談会」では、「今後の史料の活用をめぐって」もテーマとなっている。

 さらに、「400日抗争」だけでなく、日教組初期からも含めて、TU研独自のインタビューやヒアリング活動が重ねられ、個別に冊子化された「研究成果」も多数ある。例えば、日教組と長く友誼単産だった国労について、元国労横浜保線区分会長の「ヒアリング記録」(2023年11月)などは興味深い。

<研究成果の集約と今後のTU研について>

 10年余に及ぶ共同研究のあゆみは、年表として10頁ほどにわたって整然と記録されている。また各年毎に、各人の関連する著書・報告書、論文、学会発表も20頁近く集約されている。そして、今後のTU研について各人が継続中の研究やこれからのテーマについて語っており、重要な節目を迎えている。今後の研究にも期待が膨らむ。

 本書編集の布村育子(国立音楽大学教授)は「はしがき」で述べている――日教組は「謎」の多い組織である。これまで私たちが発表してきた研究成果は、後世において、正当に評価されると思う。それとともに、「謎」な組織を研究しようとしたTU研のことも、研究対象になる日が来るように思う。その際の第一級の資料として、本報告書は位置づけられるだろう――と。(伍賀 偕子<ごか ともこ>)

※著者の広田照幸氏からは写真の3冊を恵贈いただきましたが、今回は紙幅の都合により2冊を取り上げました。