エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『決断 そごう・西武61年目のストライキ』

『決断 そごう・西武61年目のストライキ』寺岡泰博、2024年7月、講談社

 

 2023年8月31日。池袋の顔である西武百貨店池袋本店でストライキが決行されました。うだるような暑さの中、「そごう・西武労働組合」「ストライキ決行中!!」のプラカードや「池袋の地に百貨店を残そう!」「西武池袋本店を守ろう!」「これからもお客さまと共に…」と書かれたのぼりを手に組合員や他の百貨店の労働組合委員長など約300人がデモ行進を行いました。
 百貨店では実に61年ぶりのスト、それも業界最大手のひとつである西武百貨店の旗艦店池袋本店でのストということで当日のトップニュースとなり、大きな話題となりました。このストが決行されるまでの経緯をそごう・西武労働組合を率いた寺岡泰博委員長が記したのが本書です。

 

 最終的に2023年9月1日に株式会社そごう・西武は親会社であるセブン&アイ・ホールディングスによってアメリカの投資会社フォートレス・インベストメント・グループに売却されましたが、それまでの1年数か月の間、そごう・西武労働組合は会社に繰り返し、情報の提供と誠実な交渉を求めたにもかかわらず、会社は建設的な協議に応じることはありませんでした。元来、西武百貨店労組は労使協調路線であったため、当初ストは想定されていませんでした。しかし、誠意のない会社の対応に不信を募らせた労働組合は期限ギリギリの決断で売却前日にストに踏み切ったのでした。


 スト当日のデモに高島屋、三越伊勢丹、大丸松坂屋、阪急阪神の各百貨店の労組の委員長がリスクを顧みず参加する場面は感動的です。クレディセゾン労組委員長も含めて、前日の記者会見でも各委員長たちは名前を連ねて席につきました。その光景はこのストは一企業の問題に留まらないとの印象を見る人々に与えたことでしょう。
 また、デモでのアピールを冒頭ののぼりに掲げた三つに絞り、地域との共存を訴えたことで多くの人々から一定の理解と共感を得ました。これは今後の労働運動にとって重要なヒントとなると思います。

 

 本書はなんといっても「労働者」そして「労働組合」の立場からの報告ということに大きな意味があります。また、本書には「百貨店人」という百貨店で働く志とスキルを持った労働者の自負がにじみ出る単語が度々でてくるのですが、そこでは資本の論理と労働者が己の仕事に誇りを持って働き続けることは両立しえないのかという問いも繰り返されています。

 

 労働争議がほとんど行われなくなった今般、労使交渉も表面に現れることがなくなりました。今回、本書で詳細に記された労働組合と会社との交渉の記録は現代の労使関係・労働組合の貴重な史料でもあります。

 このストの61年前に阪神百貨店が行った1962年の全日ストの件数は1283件(ピークは1974年の5197件)、対して2023年の全日ストは39件。労働者による集団的な抗議が激減するなか行われたこのそごう・西武労働組合のストライキは今後歴史的なトピックとして語り継がれるに違いありません。


 なお、後書きで記されているようにデモで使用されたプラカードやのぼり、および機関紙や文書類が法政大学大原社会問題研究所と当館に寄贈されました。

 ストライキの後も(後こそというべきでしょうか)大変でしょうに、これらを史料として残すことを考え、保存先を探して交渉し、整理して送り出されたそごう・西武労働組合に敬意と感謝を表したいと思います。

 


 余談ですが、送付されてきた寄贈品の梱包が角がピシッとして箱にもぴったりと入っていて美しくて感動しました。さすが百貨店クオリティです。

(館長補佐:千本沢子)