労働環境の不協和音を生きる : 労働と生活のジェンダー分析
堀川裕里編著 晃洋書房 2024.12 229, 3p 19㎝
本書は、編者堀川裕里(新潟国際情報大学)を初めとする9名のプロジェクトによる研究結果の集約である。
コロナ禍が顕在化させた「労働環境の不協和音」を社会政策の両輪である「労働」と「生活」の視点から分析し、労働者が<生きるために働く>ことについて考察している。社会学、文学、社会福祉学、歴史学、経済学の多様な専門分野の研究者による共同研究の集積である。「労働者としての道を歩み始めようとしている若者たちに手に取ってほしい」と、「はしがき」で述べているように、各章とも歴史的経緯も含めてわかりやすく工夫されていると思う。
本書において、「労働環境の不協和音」は四つに分類されている。第1は、生活領域が極限までそぎ落とされた労働領域の実態。第2は、妊娠・出産・子育て・介護が加わると労働も生活も立ち行かない日本の生活設計。第3は、女性に偏ったケア労働。第4は、従来の社会政策が射程に収められていなかった働き方、社会保障における生存権保障が手薄い人々である。
目次は以下の通りであるが、各章とも内容が伝わりやすいサブタイトルが工夫されているので、長くなるがすべて紹介する。
序 章 「社会政策とはなにか」という問いの難しさ(堀川祐里)
―〈生きるために働く〉労働者の生活を科学する
第一章 バリキャリ女子の欠点? (五十嵐舞)
―『家政夫のナギサさん』にみる労働力の再生産とフェミニズムの脱政治化
第二章 ジェンダー平等は健康の権利を放棄しなければ得られないか(堀川祐里)
―労働力の再生産から考える生理休暇の意義
第三章 労働災害から身体を守る(鈴木 力)
―女性港湾労働者による労災防止の営み
第四章 「産業癈兵」の誕生(新川綾子)
―戦間期日本の工場内労働災害及び救貧政策におけるジェンダー構造
第五章 移住によって観光業へ参入する女性の労働と世代間の再生産(清水友理子・跡部千慧)
―妊娠・子育て期にカフェ・ゲストハウスを家族経営した女性のライフヒストリー
第六章 なぜ日本の「ケア労働」は低賃金なのか(跡部千慧)
―ジェンダー視点からの再生産労働の考察
第七章 社会福祉の現場において〝ふたつの生活〞を守る(岡 桃子・跡部千慧)
―社会的養護における施設職員の生活と施設で暮らす子どもたちの生活
第八章 グローバル東京をクィアする(大島 岳・久保優翔)
―音楽実践をつうじた多文化共生と共創
終 章 「労働環境の不協和音」を生きるには(跡部千慧・鈴木 力)
―「生活」が極限まで切り詰められた「労働」から〈生きるために働く〉ことの復権へ
全体構成は、共同研究会が重ねられた積み重ねが伝わる、非常に錬られた構成である。関心の深いどの章からでも手に取れる、学習会や読書会のテキストとしてもお薦め、と書き終えようとしていたら本書について興味深い情報を得たので、その紹介を付け加える。
それは、社会政策学会労働史部会が執筆者8名の報告をもとにオンラインで開催する、本書を読む研究会である。3/22(土)13時~16時 非会員も参加可能で、参加費無料。
詳細と申し込みは↓
労働史部会 2024年度第3回研究会 『労働環境の不協和音を生きる ――労働と生活のジェンダー分析』を読む - 社会政策学会 研究会情報
もう一つの付け加えは、編者=堀川裕里さまは、わがエル・ライブラリーを何度も活用されたということである。その意味でも親しみ深い書である。とりわけ、第二章は、均等法案反対運動の真っ只中に参加していた私にとっては、「均等法」評価に関わる歴史的分析や挙げられた歴史的文献も、我が意を得たりの思いで、非常に興味深く読ませていただき、次世代に継承したい書であることを重ねて強調したい。
(伍賀 偕子(ゴカトモコ) 元「関西女の労働問題研究会」代表)