エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『働くこととフェミニズム―竹中恵美子に学ぶ』

フォーラム 労働・社会政策・ジェンダー編(ドメス出版/2020年/A5判330頁)

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 本書は、戦後早い時期から現代にいたるまで、労働と社会とジェンダーをつなぐ理論的道筋を先駆的にきり拓いてきた竹中恵美子と、その仲間たちによる共同制作である。

 2019年秋に、竹中恵美子の卒寿を祝って、「竹中恵美子から得たものを語り継ぐ」会が開催された記録が第1部である。竹中恵美子の「女性労働研究」に出会った人たち20名が、その出会いをどう受けとめ、自分自身の実践や人生にどのような影響を受けたのか、熱く語っていて、寄せられたメッセージも含めて、「日本における草の根労働フェミニズムの多様な淵源を確認する場となった」と記されている。

目次は以下の通りである。

 「まえがき」を読めば、各章の狙いと意義が端的に語られ、わかりやすい誘いである。 

まえがき                    北 明美
第Ⅰ部 竹中恵美子卒寿記念フォーラム
  第1章 竹中恵美子先生から得たものを語り継ぐ
第Ⅱ部 第二波フェミニズムと女性労働研究の到達点
  第2章 第二波フェミニズムの登場とそのインパク
     ―女性労働研究の到達点          竹中恵美子
第Ⅲ部 竹中理論の意義をつなぐ
第3章 労働フェミニズムの構築―竹中「女性労働」理論の”革新”  久場 嬉子
第4章 竹中理論と社会政策― 著作集第Ⅴ巻『社会政策とジェンダー』を中心に
北  明美
  第5章 『竹中恵美子著作集』(全7巻)を読む       北  明美
  第6章 山川菊栄から竹中恵美子へ -受け継がれた課題   松野尾 裕 
第Ⅳ部 竹中恵美子と仲間たち
第7章 関西における労働運動フェミニズムと竹中理論    伍賀 偕子
第8章 男女雇用機会均等法が取りこぼした「平等」を問い直す
―大阪の女性労働運動に着目して  堀 あきこ 関 めぐみ 荒木 菜穂
第9章 働く、学ぶ、生きる
    ―竹中恵美子と仲間たち:経済学と出会うとき    松野尾 裕  
  第10章 2つの竹中セミナーから共同学習への歩み
竹中恵美子の自分史
第11章 竹中恵美子への「自分史聞き書き

  Ⅱ部は、竹中恵美子執筆で、― 階級支配と性支配の関連性を問う1970年代以降のマルクス主義フェミニズムと、90年代に登場したフェミニスト経済学が既成の学問と世界の男女平等政策にもたらした革新と貢献を女性労働研究の到達点として総括 ―している。

 第Ⅲ部「竹中理論の意義をつなぐ」は、2013年春の社会政策学会ジェンダー部会で「竹中理論の諸相(1)」で報告された久場嬉子論文をはじめ、「竹中著作集を読む」北明美論文や「山川菊栄から竹中恵美子に受け継がれた課題」を述べた松野尾 裕論文で構成され、竹中理論の真髄を学ぶ入門編として貴重な示唆を得ることができる。

 そして、第Ⅳ部「竹中恵美子と仲間たち」では、竹中の研究と問題提起がどれ程多くの人々に確信と励ましをもたらし、労働運動フェミニズムの実践と結びついていたかを、50年近い時代を追って報告されている。1人の研究者と仲間たちの「理論と実践が紡がれる」積み重ね、関西の女性運動の特徴がリアルに伝わる。

 最後の第11章は本書でしか読めない竹中恵美子の自分史の聞き書きで、親しみやすい人間像が浮かんでくる。各部の中扉のカットは、最近竹中が遊び心で描いたものであり、竹中をよく知っている人たちから、意外な反響も伝わっている。

 編者の意図は、竹中恵美子の著作や講演に接したことのない人びとに広げたいという想いで編纂したと語られていて、本の帯には、「竹中恵美子を知っていますか?」と問いかけている。是非、初めての方にも読んでいただくことをお勧めしたい。(伍賀 偕子<ごか・ともこ>)