エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『過労死は防げる~弁護士・労働組合が今、伝えたいこと』

連合大阪法曹団有志・連合大阪非正規労働センター編著(かもがわ出版/2019年/四六判144頁)

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 「過労死」が深刻な社会問題となって久しい。ローマ字のkarôshiが2002年にオックスフォード英語辞典に掲載され、日本の労働組合にとって不名誉なことだが、国際用語にもなっている。

 「過労死防止」の実践的記録や手引きの類書は、身をもってたたかった当事者や家族・支援者による貴重な記録、労働運動の再生をめざした研究者の優れた著書や、「働き方改革」を掲げた官製手引書など、少なくはない。

 本書は、過労死が繰り返される日本社会において、“非力”を批判されがちな労働組合のローカルセンター「連合大阪」非正規労働センターのスタッフと、共に歩む「連合大阪法曹団」の弁護士有志によって、多くの実践と苦悩の中から編み出された書であることに注目したい。 

 表紙カバーで、「この本を働く仲間の皆さんやそのご家族におおくりお届けできることをうれしく思います」と、山﨑・連合大阪会長が冒頭に述べているのは、労働組合トップリーダーが背負う責務から発せられた言葉として重く受け止める。そして「私たちは、過労死ゼロ社会を必ず実現しなければならないと考えています」の決意が改めて述べられている。 

 構成は以下の通りである。

第Ⅰ部 長時間労働・過重労働の被害の実態

  • なぜ過労死を止められなかったのか⁉ ある遺族のお話から
  • 裁判でも認められた異常な労働の実態

第Ⅱ部 過労死を防ぐ基礎知識Q&A

第Ⅲ部 過労死を防ぐためにできること

  • 労働者本人ができること、すべきこと
  • 労働組合ができること、していること
  • 会社がすべきこと、上司ができること
  • 家族にできること

第Ⅳ部 病気になってしまった場合にできること 

  冒頭の過労自死に追い込まれたシステムエンジニアの遺族のインタビューは、経営に対する怒りと、「応援してしまった私」という言葉が胸に響く。本書は、遺族や家族の悲しみに応えて、社会から過労死をなくすためにという基調が貫かれている。

 第Ⅱ部の「過労死を防ぐ基礎知識Q&A」は、豊富な具体例にもとづいて、わかりやすく解説されている。

 そして、官製マニュアルとの違いは、第Ⅲ部「過労死を防ぐためにできること」のなかで「2.労働組合ができること、していること」の節である。36条協定の締結・内容の点検、安全衛生委員会や衛生委員会での協議・情報収集、労働者の労働時間把握・アンケート、過重労働の疑いのある労働組合員との面談・相談、労使協議会・団体交渉での是正要求、産業医との連携 ― などが挙げられている。これらは、「できること」ではなく、労働組合が最低限「なすべきこと」だと思う(「会社がすべきこと」と同様)。

 労組の組織率が低下しているなかで、職場に労組がない労働者に対する注意喚起・呼びかけが重要であるという認識が本書全体に貫かれている。企業内組合が、組合員一人ひとりの労働実態の把握と心情に寄り添うことはもちろんとして、組織化できてない非正規や下請け等の労働者の労働実態にアンテナを張り、問題提起と是正のために共に動く組織であってほしい。本書が、そのきっかけとなることを、心から願う。(伍賀 偕子〈ごか・ともこ〉元「女の労働問題研究会」代表)

大阪大空襲の体験を語る会代表久保三也子資料目録

 当館に寄託された久保三也子さんの資料について研究を進めてきた「大阪空襲被災者運動資料研究会」(空資研)から、報告書の第2集が発行されました。63頁の薄い冊子ですが、久保さんが代表を務めておられる「大阪大空襲の体験を語る会」(「語る会」)の歴史についてもまとめられています。

 第1集は昨年8月に刊行された『『大阪大空襲体験記』総目次・索引』です(詳しくはこちら)。

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 今回の冊子は、大阪大空襲の被災者運動を担ってこられた久保三也子さんが大事に保管され続けてきた被災者名簿などの資料目録です。空資研は3年にわたって資料群の整理・研究にとりくみ、このたび、資料目録を完成させました。

 今回目録が刊行されたことによって、資料そのものの公開活用に向けて一歩を踏み出したといえるでしょう。今後、久保三也子氏寄託資料の公開については、閲覧希望にお応えできるように空資研とエル・ライブラリーとで協議中です

 なお、「語る会」の資料や空資研の活動について、8月15日(木)23:35-23:45のNHKテレビ「時論公論」で取り上げられる予定です。

 この目録についてのお問い合わせはこちらからどうぞ

<書誌情報>

大阪大空襲の体験を語る会代表久保三也子資料目録  /  大阪空襲被災者運動資料研究会編集.  2019.8,  大阪空襲被災者運動資料研究会

63p. 30cm

 

『写真記録・三島由紀夫が書かなかった近江絹糸人権争議~絹とクミアイ』

『写真記録・三島由紀夫が書かなかった近江絹糸人権争議~絹とクミアイ』

本田一成(新評論/2019年2月/A判204頁) 

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 本書は、1954(S29)年、106日間に及ぶ日本最大級の労働争議=近江絹糸人権争議について、この争議を取材した三島由紀夫が作品化した小説『絹と明察』には書かれなかった、労働争議そのものを真正面から取り上げた書である。

 この歴史的な大争議については類書が多いが、本書は「これまでの本ではないような形」で、「写真記録をベースにした本」をという著者の目的意識で編纂されて、書名も「写真記録」とされている。この企画に、近江絹糸労組彦根支部長の朝倉克己氏(2012年と2014年に近江人権争議の本を2冊上梓、そして三島由紀夫の小説のモデルでもある)をはじめ各地のOBOG会の人たちや、オーミケンシ労組、全繊同盟等から600点近い写真が寄せられ、厳選の末に200点を超える未公開写真が、本書に掲載されている。どの写真にも丁寧なキャプションがついていて、写真提供者への取材も含めてものすごいエネルギーが費やされた書となっている。これらの解説に導かれて、各場面に登場する人びとの真剣で生き生きとした表情や迫力が読者に迫ってくる。貴重な歴史的価値を生み出した書となっている。

 著者は、この人権争議に関する既存の文献におけるウイークポイントを5項目あげて、たとえば、★1954年の人権争議だけでなく、後の「企業再建闘争」に触れられてない ★本社労組の結成が導火線となった多発的争議であるが、彦根支部に集中しがちである ★労使が多様な争議戦術を駆使して、労使関係論の教科書のごとき争議の展開だが、労働組合論や労使関係論に依拠したコメントが少ない、★争議を指導した上部組合の全繊同盟の方針への分析が少ない― 等である。

 著者は、三島由紀夫が書かなかった「労働争議」について、争議を経験したことがない今の世代にもわかるように丁寧に、本文や注で解説している ―ストライキ、ピケ、ロックアウト、団体交渉権・・・というように。

 工場周辺の住民・市民への訴え、組合員家族への会社側の画策(“全繊に騙され操られている”)に対する説得活動、他産業も含めて広範囲の労働組合からの支援拡大、中労委や国会、ILO提訴など、地域から国際世論へも支援戦線を拡げる戦略、莫大な闘争支援カンパ(闘争費用以外に、組合員の生活費を1か月1人約5,100円計上)― 等々、組合結成オルグから争議指導に至るまでの全繊同盟の「集権制」の分析が第5章でなされている。その方針は、一貫して成功を重ねたわけではなく、失敗もあり、「言ってみれば、全繊同盟も若き産別組合であった」と著者は言う。この争議指導体験が全繊同盟強化の一助となったと言えるのだろう。

 この争議が「人権争議」と呼ばれる所以は、組合結成時に会社へ提起された22項目の要求―仏教の強制反対、結婚の自由、外出の自由、信書開封・私物検査反対、月例首切り反対―等に示される、信じられないような人権破壊に対する怒りから発せられた起ちあがりだったからであり、国民的な支援と反響を呼んだのである(言わずもがなのことだからか、22項目の要求全文の掲載はない)。また、会社側が争議つぶしに暴力団を雇ったことも世論を敵に回した。

 全繊同盟は1946年に結成されて1950年10月総評へ加盟したが、1953年11月に総評を脱退して1964年にナショナルセンター同盟結成の盟主となった、いわば総評と対抗する組織である。近江人権争議の時期は全繊同盟が総評を脱退する前後と重なっており、本書では、「左右の対立」と表現されている。

 しかし、この人権争議に対して総評は「共闘」を表明し、高野実・総評事務局長が大垣工場を激励訪問している。上層部の幹部段階の動きはさておくとしても、大阪総評婦人部は緊急常任委員会を開催して近江絹糸労組の争議支援街頭カンパを決定し、54年6月末~7月上旬の4日間、5所のターミナルで延べ102人が街頭カンパを訴え、70,940円を集めて岸和田支部彦根支部に持参手交し、組合員と懇談している(『大阪総評婦人運動年表』より)。当該ではない呼びかけにでも、これだけの支援が街頭で示されるほどに、この人権争議に国民的関心が寄せられたのである。

 たたかいは人を変え強くすると言われるように、この争議によって生き方が決まった人、差し入れのお握りやカンパに涙した感激に、「連帯」を信じる人生を歩んだ人(逆に会社側の軋轢に堪えられず3名が自害するという悲惨な出来事もあったが)― たたかいが切り拓いた豊かな出会いと絆を、後世の人たちに伝えたいと願う。(伍賀 偕子〈ごか・ともこ〉元「関西女の労働研究会」代表) 

新着雑誌です(2019.8.9)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労政時報 3977号 2019.8.9.23 (201344488)

賃金事情 No2788 2019.7.20 (201344454)

労働法学研究会報 No2698 2019.8.1 (201344363)

労働経済判例速報 2381号 2019.7.20 (201344421)

労働経済判例速報 2382号 2019.7.30 (201344397)

賃金と社会保障 1734号 2019.7.25 (201344512)

労働法令通信 No2526 2019.7.18 (201344546)

労働法令通信 No2527 2019.7.28 (201344348)

労働法令通信 No2528 2019.8.8 (201344371)

 

詳細な目次はこちら

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医学系雑誌引き取り希望

医学系雑誌4タイトルのバックナンバーがでてきました。

引き取ってくださる機関がありましたらご連絡いただけますでしょうか。

ご覧の通り、あまり状態はよくないのですが‥‥。

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『ソヴィエート医学 = Советская медицина』京大ソ医研 [編], 京都大学ソヴィエト医学研究会
 Т. 1, no. 1 (1953.6.1)
https://ci.nii.ac.jp/ncid/AN00278886

 

『医学と民生』医学出版社
 9(1947.9.1)
https://ci.nii.ac.jp/ncid/AN00013600

 

『日本内科学会雑誌』日本内科学会
 40(11)(1952.2.10)
 41(9)(1952.12.10)
https://ci.nii.ac.jp/ncid/AN001958

 

『醫學評論 = Japana medicina revuo』醫學評論社 [編], 醫學評論社
 3(1)(1952.1.31)
 3(2)(1952.4.1)
https://ci.nii.ac.jp/ncid/AN00013699

・研究機関、公共機関を優先させていただきます。

・ご希望複数の場合、先着順とさせていただきます。

新着雑誌です(2019.7.30)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労政時報 3976号 2019.7.26 (201344298)

労働経済判例速報 2380号 2019.7.10 (201344256)

労働法学研究会報 No2697 2019.7.15 (201344116)

旬刊福利厚生 No2274 2019.6.25 (201344280)

旬刊福利厚生 2273号 2019.6.11 (201344314)

労働基準広報 No2000 2019.7.21 (201344140)

労働法律旬報 1939号 2019.7.10 (201344173)

賃金と社会保障 1733号 2019.7.10 (201344207)

 

詳細な目次はこちら

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『政治と労働の接点Ⅱ』

『政治と労働の接点Ⅱ』一の橋政策研究会(非売品/2019年/B5版224頁)

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 本書の発行元である「一の橋政策研究会」は、加藤敏幸元参議院議員民主党参議院国会対策委員長/現電機連合政治アドバイザー)の議員退任後の政治活動を支える政治団体として2016年に設立された(代表=加藤敏幸 事務局長=中堤康方)。

 連合結成時から労働政策局長、組織局長(電機連合)などを歴任した加藤代表の体験と、12年間の議員活動の実績を有効活用して政治と労働の両分野に存する諸課題の解明と提言をめざして活動を重ね、『政治と労働の接点―経験から課題提起―』が刊行され、本書はその続編である。

 構成は、ウェブ鼎談シリーズ「労働運動の昨日・今日・明日」鼎談集(10本)と、加藤代表の執筆コラム「遅牛草牛」(32本)の二本立てとなっている。

 鼎談の各テーマは以下の通りで、そのテーマに精通するキャリアの方々(14名)と加藤代表・中堤事務局長が歴史を振り返りながら現状を解明し、将来への提言を行っている。

 第1回「産別運動の現場から」 第2回「官民合流、ILO」 第3回「ILO100周年に向けて」 第4回「政策制度課題の取組み」 第5回「賃金をめぐる諸課題」 第6回「最低賃金について」 第7回「障害者雇用・就労支援について」 第8・9回「官公労働運動について①②」 第10回「労働運動と生産性」

 連合結成から30年を経て、労働者になった時から「連合」はすでにあったという人が今や大多数の時代において、「連合」結成=官民統一をめぐる論議がどのように展開され進行したのかの歴史を知る上で、結成時に携わった人たちの証言は貴重である。

 登壇者の多くの問題意識として、連合が「大企業の正社員」の利益を代弁するにすぎないという世間一般で形成されているイメージをどう払拭するのか ― が共通している。

 そんな中で第三者の意見を求めた「連合評価委員会」報告書(2003年9月/中坊公平座長)への高い評価が、第2回「官民合流、ILO」の章で語られており、他の登壇者たちの問題意識にのぼっていることが伺える展開である。

 「政治と労働の接点」という書名に関わるなら、労働組合の政策制度課題を直接語っているのは第4回で、連合で政策制度課題を担当してきた小島茂・花井圭子両氏(花井は、登壇者で唯一の女性)である。労働者の運動現場からのニーズを政策化し、その実現のために女性運動が推進された経緯を、ここでは「育児休業法」を例に証言していて、ニーズ・要求の収集と政策化、実現のための運動推進の生き生きとした結びつきが浮かび上がる。

 そして、政権への働きかけで、各種審議会での連合委員発言が重要視されるが、5,000万雇用労働者の共感を呼ぶような「説明責任」と運動提起が重要であると強調されている。

 第10回「労働運動と生産性」も非常に興味深い。「生産性」については、労働戦線統一以前から、対立的な論議があり、今日的にも、「働き方改革」提案によって「雇用対策法」が改定されたが(「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業政策の充実等に関する法律」)、その目的に「労働生産性の向上」が、初めて法文に明記された。そして、口にするのも憚れるが、LGBTsは生産性がないというような保守政治家の妄言も登場するなど、議論が大いにある。

 ここでは、山﨑弦一・連合大阪会長が登壇。学術博士、コースドクターという労働界では珍しい存在で、実際に松下電器産業㈱(現パナソニック)の研究部門で働き、原体験は父親の鉄工所でのものづくり体験だと述べている人の、「生産性」についての語りである。

 1959年のヨーロッパ生産性本部の「ローマ宣言」やゴーリキの『どん底』の中のセリフ=「仕事が楽しみならば人生は極楽、仕事が義務ならば人生は地獄」=などを引用しつつ、「生産性」が係数的に分母や分子をいじって生産性をあげよと掛け声をかけることではなく、「働く」ことの意識をどうあげていくのか、働くことの質が本来的に問われているのだ― と。

 「働く」ことは(雇用労働に関わらず)、人間の本来的な活動であって、内在的に意識をあげていくことの重要性が語られていて、何度も読み返す示唆に富んだ鼎談である。

 なお、本書は非売品ではあるが、発行元の研究会のHPからアクセスすることができる。(伍賀偕子〈ごか・ともこ〉、元「関西女の労働問題研究会」代表)