博士論文「利潤分配制と社会主義」を頂戴しました

 エル・ライブラリーの資料を利用して博士論文を書かれた鈴木啓史さんから、論文を頂戴しました。大学図書館以外では博士論文を所蔵している図書館は少ないので、これも貴重な資料です。
 写真のように立派に製本され、中身も430ページに及ぶ大部なものです。今時の博士論文には写真など画像がふんだんに掲載されているのにも驚きました。今では手軽に画像を貼り付けることができるので、ずいぶん豪華な印象を受けます。
 見た目はともかく、内容ももちろん学位論文に相応しいものです。著者の問題意識は、21世紀の労働問題の解決の手がかりとなる、「利潤分配制」に関する諸政策を19世紀から現在まで遡及して追究することにあります。
 「会社」が西欧において発生したとき、それは反権力的なラディカルな結社であったのに、日本に導入されたときには明治政府によってその民主主義的な側面がそぎ落とされた、とのこと。ソ連邦が成立したときも同じく、会社=アソシエーションによる「占有」ではなく、国家による所有が行われた。これは、ソ連と明治日本政府が基本的に同じ性格(保守主義)をもっていることになり、ソ連の「国営社会主義」は社会主義の本義を大きく外れたものである。というのが著者の見解です。
 
以下、利潤分配制の歴史的概念の変化について、マルクスの語義を慎重に分析しながら論が進みます。社会主義思想を導入した日本で、「資本主義的なアソシエーションを如何に改良するのかという本来の社会主義を展開した者がいたのか、という疑問に対する答えを示そうとするのが、歴史社会学研究としての本稿の中心的な課題」です。 
 本稿の記述は、マルクスなどの原典にあたって批判的再読を行うテキスト読解と同時に、豊富な傍証資料を使って、明治以来の日本での社会主義思想の受容について描いていきます。とりわけアナキズム思想の影響についての部分が個人的には興味深く感じました。(谷合佳代子)

<書誌情報>
利潤分配制と社会主義 鈴木啓史[著] 大阪大学大学院人間科学研究科博士学位論文 ; 2010年度