エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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新着雑誌です(2020.6.4)

新着雑誌です。

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労政時報 3991号 2020.4.10 (201371655)

労政時報 3992号 2020.4.24 (201371689)

労政時報 No3993号 2020.5.8 (201371846)

労務事情 No1404 2020.4.15 (201371648)

労務事情 No1405 2020.5.1 (201371671)

労務事情 No1406 2020.5.15 (201371473)

賃金事情 No2803 2020.4.5 (201371507)

人事実務 No1208 2020.5.1 (201371531)

企業と人材 No1087 2020.5.5 (201371564)

月刊人事マネジメント 352号 2020.4.5 (201371598)

月刊人事マネジメント 353号 2020.5.5 (201371622)

労働基準広報 No2025 2020.4.11 (201371879)

労働基準広報 No2026 2020.4.21 (201371903)

労働基準広報 No2027 2020.5.1 (201371705)

労働基準広報 No2028 2020.5.11 (201371739)

賃金と社会保障 1750号 2020.3.25 (201371697)

賃金と社会保障 1751号 2020.4.10 (201371721)

賃金と社会保障 1752号 2020.4.25 (201371754)

賃金と社会保障 1753号 2020.5.10 (201371788)

賃金と社会保障 1754号 2020.5.25 (201371812)

 

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『ハンセン病療養所と自治の歴史』

 松岡弘之著『ハンセン病療養所と自治の歴史』(みすず書房、2020年2月)

ハンセン病療養所と自治の歴史(表紙)

 1909年、大阪市尼崎市の境を流れる神崎川河口の中州(大阪市西淀川区中島)に、2府10県の第三区連合府県立外島(そとじま)保養院が開設された。1934年の室戸台風で外島保養院は壊滅、1938年に岡山県瀬戸内市長島の西端に「光明園」として復興、1930年には国立療養所第1号の長島愛生園が東端に開園していたので、長島は公立、国立療養所のある隔離の島となった。光明園は1941年に国立に移管し、「邑久光明園(おくこうみょうえん)」となり現在にいたる。

 著者は、1995年、阪神・淡路大震災後に被災地での歴史資料保全活動に参加、その後ハンセン病と出会い長島に通う。岡山県ハンセン病問題関連資料調査専門員・邑久町編集委員会近現代史部門専門委員として、邑久光明園、長島愛生園所蔵の行政文書、手紙、日誌、会議記録の調査、『長島は語る』(岡山県)及び『邑久町史』(現瀬戸内市)刊行に関わった。その後、大阪市史編纂プロジェクト、尼崎市立地域研究史料館職員として外島保養院に関連深い地で研究を続けてきた。

 何より、大阪にあった外島保養院の自治についての先駆的研究者である。

  本書は、大阪市立大学院に提出した学位論文「近代日本のハンセン病療養所における自治の成立と展開」を一般の読者に届く言葉で、書き改めたものである。外島保養院と長島愛生園を主に分析の対象とし、第1は、ハンセン病入所者の存在を、歴史のなかを生きた人々として位置づける。第2は、自治会活動という集団的実践を考察する。第3に入所者の自治を時代のなかに位置づける。以上の3つの狙いから近代ハンセン病療養所に生きた人々の苦難と希望に、そこで取り組まれた入所者の自治から迫るものである。

 序章では、1990年代以降のハンセン病問題の歴史的研究、2000年以降の流れと現状について述べている。

 第1部では、第三区連合府県立外島保養院を考察している。全国5か所に設置された公立ハンセン病療養所のなかで自治会がもっとも早く成立した療養所でもある。

外島保養院における自治は入所者管理の方法として初代院長が1915年に許可し、定着を支援した。1926年に村田正太2代目院長が就任すると、自由主義的な運営を貫き、療養所をユートピアにと自治を育てた。院内の患者作業は、自治会の作業制度として運営していった。

 大正デモクラシーの影響下で、社会主義思想も院内に及び、「日本プロレタリア癩者解放同盟」が結成された。自治会運営方針を巡って急進派、保守派と対立を深め、1933年8月には、プロレタリア・エスペラント運動に関わる職員等の検挙によって院内は動揺し、自治会は急進派追放を求め、院長も辞職する「外島事件」が起こった。

 1934年9月に京阪神地方を直撃した室戸台風後、生存者は全国6か所の療養所へ委託患者として送られ1938年に光明園へ帰園する。自治会の理念である「相愛互助」の精神は、委託先療養所に影響を及ぼした。

  第2部 国立療養所長島愛生園では、国立療養所の設置と地域社会との関連、創設期の入園者統制を『舎長会議事録』から分析、初の国立療養所では、光田健輔(みつだ・けんすけ)を頂点とする家族主義的運営がされていたが、委託患者78人を迎えて、間もなく入所者1000人を超え、光田健輔退陣、処遇改善の声があがり、激しい闘争の結果自治会が誕生した経緯について述べている。

 第3部戦争と自治では、総力戦下の長島愛生園、光明園が国立邑久光明園となった1941年にはやむなく自治を手放したが、戦後自治が復活する礎となった。

 補論1は、愛生園の女医で『小島の春」の著者小川正子が光田に宛てた書簡を分析し、補論2では長島事件後に入所した、田中文雄自治会幹部としての活動を検証した。

 ハンセン病療養所は、国の隔離政策で開設され、入所者は見えなくされてきた。

外島保養院で始まった自治を求める闘いは、他の療養所に波及し、戦後のらい予防法反対闘争、国賠訴訟、家族訴訟へと歴史的につながっていく。著者は一次史料を丁寧に分析しており、リアルに想像しながら読み進めることができる。取り上げた2つの療養所は、在日朝鮮人入所者が多かった。自治との関係で今後の研究を期待したい。

 大阪人権博物館(リバテイおおさか)では、「ハンセン病回復者」のタイトルで「隔離政策と偏見との闘い」として、外島保養院における自治、「日本プロレタリア癩者解放同盟」も展示されていた。それが2011年に橋下知事の介入で展示内容が変更された。大阪市長に転身した橋下氏により、2015年には市有地明け渡しと賃借料請求訴訟が提訴された。2016年秋には、らい予防法廃止20年、国賠訴訟勝訴15年記念企画展「人間回復への道―ハンセン病問題は問いかける」(ハンセン病市民学会、大阪人権博物館共催)を実施したが、この5月で閉館となった。3万点の資料を所蔵する館の移転先は決まっていない。

 こうした時期に本書が刊行された意義は大きい。

              (外島保養院の歴史をのこす会共同代表:三宅美千子)

6月2日(火)から開館します

 新型コロナウィルス感染症防止のために5月30日まで臨時休館(5月31日と6月1日は通常休館)していましたが、6月2日(火)より開館いたします。 ただし、ご利用に際しては以下の点をご協力お願いいたします。
 当分のあいだ、ご利用は予約制とし、閲覧ご希望の資料名を前日までにご連絡ください。できるだけ滞在時間を短くしていただけるように、資料をご用意しておきます。

 

<6月2日(火)から当面の運営状況予定>
★ご来館は前日までの予約制
サポート会員への送料無料の貸出郵送サービスは当面続行(貸出できない資料もあります。詳細はお問い合わせを)
★非会員への貸出しは終了
★バザー・古本市は中止
★夜間開館は中止
★団体見学は受け入れ停止
★開館日は平日の火曜から土曜まで。開館時間は10時~17時まで


    <ご来館のみなさまへのお願い>
(1)マスクを着用してください。
(2)手洗い、手指の消毒を。エル・おおさか4階エレベーター前に消毒薬を設置していますので、ライブラリー入室前にお使いください。
(3)できるだけおひとりでご来館を。
(4)自習はできません。


   状況を見ながら徐々に制限を緩和いたしますので、当面のご不自由とご不便について、ご理解ご協力をお願い申し上げます。

お問合せフォーム:https://shaunkyo.jp/contact/
電話:06-6947-7722
当館最新情報:https://twitter.com/Llibraryosaka

20世紀メディアよもやま話

 当館館長・谷合佳代子も寄稿したエッセイ集が発行されました。

 本書は雑誌『Intelligence』購読会員だけが読める限定ブログに掲載された記事を編集して冊子にしたものです。錚々(そうそう)たる研究者たちが書かれた記事の中に、不釣り合いに谷合のエル・ライブラリー紹介文があるのがなんとなく居心地が悪いのですが、これはぜひ多くの方にお読みいただきたいものです。

 『Intelligence』は早稲田大学20世紀メディア研究所の”機関誌”です。2001年に生まれた同研究所は主としてプランゲ文庫の雑誌データベースの作成や、その推進のための研究会を開いてきました。会員向け雑誌『Intelligence』は2002年3月に創刊され、このたびめでたく20号が発行されたわけです。この『よもやま話』は2015年5月号から2019年12月号までに掲載された記事のうち、著者の許諾が得られた30編が再録されています。

 文生書院が限定300部出版されたものですので、なかなか人目につきにくいのですが、全頁カラー印刷という豪華版であり、写真が豊富に掲載されていることも魅力です。

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 ではその魅力のラインナップを文生書院のWebサイトから引用します。

「太平洋戦争とドナルド・キーン」展を見て 川崎賢子
昭南中央放送局に関する一資料について 土屋礼子
シベリア墓地再訪 山本武利
ベルリンにて、戦後70年を考える 鈴木貴宇
緒方竹虎とCIA』とその後。テーマの広がり、研究動向から 吉田則昭
ゾルゲ事件被告ヴケリッチ家のオーストラリア 加藤哲郎
原子力平和利用博覧会」と『スーホの白い馬 白山眞理
別府市立図書館にあった検閲済みスタンプの押された紙芝居 白土康代
文化社と『東京復興写真集1945~46』 井上祐子
初期『帝大新聞』の研究:『帝大新聞』OBの情報局次長・久富達夫について 清水あつし
プロパガンダが生み出す「被害者→敵→生け贄のサイクル」 吉本秀子
大衆政治における、メデイア、大衆、専門家:戸坂潤の示唆するもの 赤見友子
朝日新聞』「ひととき」欄から生まれた女中サークル「希交会」の機関誌『あさつゆ』の復刻 阪本博志
沙飛と日本人 梅村卓
ドイツで見た「日本文化」の祭典 松田さおり
支那の夜』:「3つの結末」という伝説 宜野座菜央見
出版検閲作業のフローチャートから判ること 林昌樹
社会労働運動のアーカイブズ:エル・ライブラリーの資料紹介 谷合佳代子
西郷隆盛金大中、英雄たちの「敬天愛人 羽生浩一
イギリスにおける「知識への課税」(スタンプ税)廃止の背景 芝田正夫
東アジアを越境する資料群:アメリカにおける満洲国関連資料 王楽
検閲官・佐伯郁郎旧蔵資料との邂逅 村山龍
香港映画資料館への調査の旅 晏トン
戦時下に問いを求めて:『戦時下雑誌アンケート索引』御紹介 藤元直樹
史料が放つ時代の空気 賀茂道子
『東京ファイル212』における‘new’オリエンタリズム 志村三代子
「民衆の図書館」を守り伝えるために:大宅壮一文庫の試み 鴨志田浩
英・戦中日本語学校教官の日記 武田珂代子
日本が建設したロシア兵の忠魂碑 米濱泰英
言論の自由とその危機 黒宮広昭

 本書はAmazonで購入可能です。購読会員の申し込みをすると、今なら年会費3000円で4950円分の冊子(「よもやま話」を含む)を入手できます。詳しくは文生書院のサイトをご覧ください。

https://www.bunsei.co.jp/original/new-publication/yomoyama/

<書誌情報>
20世紀メディアよもやま話:購読会員限定ブログ記事再録集
20世紀メディア研究所インテリジェンス編集委員会発行 文生書院製作
2020.4
151p 21㎝
1000円

「患者」の生成と変容 日本における脊椎損傷の歴史的研究

 坂井めぐみ著(晃陽書房/2019年7月/B判305頁)

「患者」の生成と変容

 著者は10代に脊髄損傷を負い、入院・療養生活から一歩踏み出して大学に入学し、企業に就職したのち、再び大学院に進学して研究に取り組んできた。

 本書は2018年の博士論文を加筆修正したもので、脊椎損傷医療の形成・展開を社会情勢、医療制度、法律、患者の生活と関連づけながら、幕末期から現在にわたる150年の歴史を検討することによって、患者像の変容を示した医療史研究であり、現在および未来の再生医療の方向性を問う貴重な労作である。

 現在日本には10万人に及ぶ脊椎損傷者がおり、毎年新たに約5,000人が受傷と推定されていて、原因は、戦争、労働災害、交通事故、スポーツ事故、転落等、さまざまである。

 幕末から明治期に和訳された西洋医学書では、脊椎損傷の症状や処置が紹介されてはいるが、あくまでも「長く生きられない者」とされていた。

 150年の脊椎損傷医療の進展の歴史を紐解いている著者自身、10代の損傷時の専門医の見立ては、「一生歩けない」と言われている。そのような著者が再生医療研究に関心をもち、大部の研究書に結実する研究生活を築くに至っている、その過程の苦闘がどのようなものであったかは、私には想像もできないが、「あとがき」で、「ある程度は主体的に生きられるようになったと思う」という自己規定に接し、本書の重みの片鱗に触れた感じがする。歴史の探索と分析、現代の課題の提起、すべてにおいて、一貫した立ち位置が明確なのである。

 本書は、序章、第Ⅰ部「脊椎損傷医療と脊椎損傷者の歴史」と第Ⅱ部「脊椎損傷者による医療への関りの現代史」、終章合わせて11の章で構成されている。

 脊椎損傷者は日清・日露戦争で現実の存在となり、戦傷病者の医療体制の整備に伴い、脊椎戦傷者が臨時東京第一陸軍病院に集約された。整形外科と軍陣医療の接点が追跡されている。全くの門外漢に、脊椎損傷の「患者」の生成と変容、脊椎損傷医療の進展の歴史分析を正確に要約・紹介することはできないが、傷痍軍人から医学研究の対象者へ、そして、「社会復帰」が論点化され、「リハビリテーション」が再編成されていく過程が綿密な資料の掘り起こしとともに検証されている。

 脊椎損傷/戦傷者は、「国のために戦った傷病軍人」あるいは「パラリンピックの選手」として称揚される一方で、「医学研究の対象患者」「被験者」として実験の対象にされる存在でもあった。脊椎損傷者にとって適切な医療を受けることは生きるうえで所与の条件である。彼らは医療とともにどこで生活することができるのか、療養所、施設、自宅と迷いながら、最良の場所や方法を思案した。その過程で、自宅復帰者や就労する者が増え、自宅・社会・就労の環境整備の必要性を顕在化させ、制度の確立を求める立法化運動に結び付き、地域生活が当然のこととなるまで、模索しつつ、脊椎損傷者運動とその連帯が始まった。

 1959年10月、「全国脊椎損傷患者療友会」(療友会)(全国21支部750人)の発足がそれであり、後にその名称から「患者」が省かれ、1975年には「全国脊椎損傷者連合会」(連合会)に改称された。かくして、「患者」が医療変革の主体に関わっていくのである(本書では、「医療に介入する患者の出現」)。

 第Ⅱ部では、1999年に再生医療研究を推進するために日本で初めて設立された患者団体「特定非営利活動法人 日本せきずい基金」発足の経緯とその活動が追跡されている。

米国の自己管理ガイドブックの翻訳、疼痛の調査や脊髄損傷女性の出産・育児のガイドブックの刊行、呼吸療法や在宅リハビリの紹介、東日本大震災の被災脊髄損傷者の救援活動など幅広い活動である。

 90年代に世界的に本格化した神経再生医療研究において、この「せきずい基金」が嗅神経被覆グリア(OEG)移植、骨髄間質細胞移植などに積極的に関与していく活動を2章を割いて詳述し、「現在の再生医療研究を大きく枠づけている一面的な医療観および患者像を問い直す視点を提供することができた」と。また、―― 医療に包摂されるのではなく、むしろ押し広げていく力をもった彼らの歴史は、身体障害者の近代史として捉え直すこともできる ―― と。さらに、「今後の課題」として5点を提起している。その一つ一つを吟味する力量はないが、胎児組織利用の倫理問題をはじめ示唆を与えられる書であり、広くご一読を薦めたい。(伍賀 偕子<ごか・ともこ>元「関西女の労働問題研究会」代表)

休館延長中も提供するサービスのお知らせ

【5月7日以降も休館を延長しますが、非会員にも郵送貸し出しサービスを実施しています】

新型コロナウィルス感染防止のため、当館の臨時休館はは5月30日まで延長します。

引き続き、休館中も資料複写や貸し出しサービスが行えるようにします。

 なお、今回の休館中の特別措置として、非会員の方にも資料の郵送サービスを実施しています。

・臨時休館前から貸し出し中の資料の返却期限は6月13日まで延長します。
・休館中に提供するサービスは以下の通りです。
(1)すべての利用者対象
   ・電子メールによる調査相談、問い合わせ
   ・複写郵送サービス(1枚50円+送料)
(2)サポート会員限定
   ・送料無料による図書・雑誌の郵送貸出(期間中、1人1回につき3冊まで)
   ・送料無料による複写郵送サービス(複写代金は1枚20円)
(3)非会員への期間限定特別サービス
   ・郵送による図書・雑誌の貸し出し可能(期間中、1人1回につき5冊まで。送料は利用者負担)

※当館の資料貸し出しはサポート会員限定サービスですが、今回の休館中のみ特別に貸し出し可能とします。

   往便は着払いで発送します。返却便は、ゆうパック・簡易書留・レターパック、または宅配便等の発送物の追跡が可能な方法で発送してください。

   

◆貸し出しに当たっての注意事項:資料を汚破損・紛失された場合は弁済していただきます。貸し出しできない資料もありますので詳しくはお問合せください。

◆当館の蔵書検索ページ:https://l-library.tosho-rashinban.jp/bibliography/input

◆お問合せ:https://shaunkyo.jp/contact/

ファクスによるお問い合わせは4月15日から当分のあいだ、受け付けておりません。

「情」と「理」 山﨑弦一語録集

発行:連合大阪(2019年12月/B判178頁/私家版) 

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 本書は、連合大阪(日本労働組合総連合会大阪府連合会)会長を3期6年務め、2019年10月に退任された山﨑弦一氏の、定期大会や執行委員会、メーデー春闘決起集会などにおける挨拶を、退任を機に「語録」としてまとめたものである。

会長職時代の6年間の世界・国内情勢の変遷の中で、その時点で労働組合として重視すべき課題と方向性について、その肝とも言うべき点が語られている。

「働くことを軸とする安心社会」の実現が、連合のめざすスローガンだが、労働組合ナショナルセンター及びローカルセンターが、この時期どのように考え、どのような方針提起をしていたのかを検証する歴史上貴重な史料となるであろう。

山﨑氏は、退任にあたって、結成30周年を迎える連合運動への期待の言葉を次のように語っている。

―「今、運動も組織も自己革新しなければならない」とし、①年齢や性別、障がいの有る無し、国籍を問わず、誰もが安心して働ける労働市場を創る、②ディーセントワークを企業や働く者自身の努力で創り出していく、③積極的な人への投資(学校教育や職業教育)を実現する、④安心して働けるセーフティネットの構築、富の再配分を公平に行う社会保障制度などの社会インフラを構築する、という四つの高い「志」を立て、しっかりと共有することが重要です―さらに、力を発揮するための要点として「隗より始めよ」「『情』と『理』を大切にした対話を」「多様性を力に」という3点をあげ、運動が前進することを期待する―と。

全体を通して語られているテーマは、「働き方改革」や「若者の貧困と奨学金問題」、「男女共同参画・女性活躍推進」、「生産性」そして、「国政及び地方選挙に臨む態度」、「地方創生・地方分権」等々、多岐にわたっている。いずれも、連合本部や連合大阪の運動方針文書を解説するだけではない、労働組合リーダーや労働者一人一人に伝えたいことが滲み出ている「語録」である。

 いくつか印象に残った「語録」を紹介したい。

 まず、本書の副題である、「情」と「理」について― いくつかの先人の言葉を紹介しながら、福沢諭吉の「人間社会は『情』が7割、『理』が3割」の言を引用して、―IT革命やグローバル化が進む現代、この比率をどう考えるのか?意見が分かれるところだと思いますが、私たちの訴えは「理」ばかりが先行していないか?という反省が必要ではないか、コミュニケーション論でも「情報」と「感情」のやり取りがあって初めて成功すると言われています。「感情」のやり取りにまで、組合員の皆さんとの対話を深めていく地道な努力が求められています―と。

 一番多く語られている、安倍政権の進める「働き方改革」の危険性とそれへの「対峙」について―「働き方改革」は、政府から与えられるものではなく、現場労使の自治の下で、働く人の「働きがい」や「やりがい」を大切にした、「人間尊重」を基本とした取り組みでなければなりません―と、その基本的視点を提起している。

 そして、「働き方改革」の理念として掲げられる「生産性向上」についても、1959年のヨーロッパ生産性本部のローマ宣言「人間の進歩に対する信念である」にさかのぼりながら、あるいはゴーリキの戯曲『どん底』の台詞「仕事が楽しみなら人生は極楽だ。仕事が義務ならば人生は地獄だ」を引用して、働くことの質を本来的に問うている。さらに重要な点は、「生産性3原則」の3点目、成果の公正配分、生産性向上の諸成果は経営者、労働者および消費者に、国民経済の実情に応じて公正に配分されなければならないと強調している。

 本書は限定印刷なので、書店で購入できないが、共有したい方は、エル・ライブラリーで閲覧できる。(伍賀 偕子<ごか・ともこ> 元「関西女の労働問題研究会」代表)