エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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ひびきあう二つの「女工哀史」

 当館資料も活用されたエッセイを寄贈いただきました。それは、かの有名な『女工哀史』(細井和喜蔵著、1925年)のもう一人の作者と呼ばれている、高井としをの自伝『わたしの「女工哀史」』について書かれた歴史エッセイです。

 著者は元教員の阪上史子さんで、阪上さんは『わたしの「女工哀史」』という1980年に書かれた本に出合ったことで、このエッセイを著すこととなったそうです。歴史の教科書にも載っている『女工哀史』は有名ですが、その著者である細井和喜蔵には事実婚の妻・としをがおり、彼女自身の工場体験を詳らかに細井に語ったことで名著が生まれた、ということはあまり知られていません。

 婚姻届を出していなかったために、遺族として『女工哀史』の印税を受け取れなかったとしをは貧乏のどん底で大変な苦労をします。和喜蔵亡きあと、再婚した相手とも戦争中の空襲によって死別し、戦後は五人の子どもを日雇い労働(いわゆるニコヨン)で育て上げたうえに労働運動にも邁進した彼女の生きざまには圧倒されます。そういった高井としをの著作を紹介するこのエッセイは、著者阪上さんの感嘆や怒り・称賛・共感といった感情も吐露され、ご自身の人生とも合わせて読み応えのある記述が展開されています。

 また、戦後、兵庫県伊丹市で自由労働者の労組委員長も経験したとしをを知る古老へのインタビューも行われていて、その短い紹介も書かれています。このインタビューについては研究が進められることを期待します。(谷合佳代子)

<書誌情報>

  • 阪上史子「ひびきあう二つの「女工哀史」」『広島同人誌あいだ』6号、高雄きくえ編・発行、2023年12月