エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

ブログ記事の引用転載を希望される方は、https://l-library.hatenablog.com/about をご確認ください

感謝!500回(その1)

 千本が担当しています「新着雑誌紹介」のブログ記事が500回を超えました。これもエル・ライブラリーを12年4カ月続けてこられたからこそです。皆さまのご支援に深く感謝申し上げます。

 労働・労務関係の雑誌の目次をブログに掲載するという作業自体はエル・ライブラリーの前身である「大阪府労働情報総合プラザ」を当法人が委託運営していたときに始めました。専門図書館協議会セミナーで岡本真(現アカデミック・リソース・ガイド(ARG)代表)さんの講演を受けた谷合(現エル・ライブラリー館長)が「うちもブログを使った情報発信をする!」と宣言、有用性・速報性の観点から雑誌の目次を掲載することになりました。インターネットを用いた情報発信というのが緒に就いたばかりのころで、ブログの利用もまだ目新しかった時代でした。

 当時、当法人は「大阪府労働総合プラザ」の委託運営と併せて自前の「大阪社会運動資料センター」も運営していました(実際には「センター」設立の2006年以前から「資料室」が存在し、その運用をしていました)。

詳しくはこちらhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E7%94%A3%E6%A5%AD%E5%8A%B4%E5%83%8D%E8%B3%87%E6%96%99%E9%A4%A8

 このころ、図書整理は谷合、逐次刊行物整理は当法人の職員だったAさんと私が担当という分担がありました。さらに、私は「大阪社会運動資料センター」(前資料室)、Aさんは「大阪府労働情報総合プラザ」という区別もありました。実用的な労働・労務関係の雑誌は「大阪府労働情報総合プラザ」で受け入れていたので、雑誌の目次のプログ記事もAさんが担当していました。

 しかし、2008年7月に「大阪府労働情報総合プラザ」が廃止され、委託運営費および行政からの助成金を失った当法人は「プラザ」の図書館業務のみ(谷合と私は法人業務と図書館運営以外の事業も担当)を担当していたAさんが生計を成り立たせるだけの給与を保障する目途が立たず、申し訳ないことに離職してもらうことになってしまいました。

 先行きも見えず、資金もない(当時の理事長がこのとき投じてくれた私費をようやくお返しできたのはほんの数年前です)なか、2008年10月に「大阪産業労働資料館(エル・ライブラリー)」を開館しました。

 エル・ライブラリーは廃止された「大阪府労働情報総合プラザ」が担っていた「大阪府民への労働情報の提供・発信」、具体的には最新の労働・労務関係のデータの提供も行うこととし、労務関連の定期刊行物や関連図書を購入、閲覧に供することにしました(エル・ライブラリーサポート会員には貸出可)。併せて実務系雑誌の目次のブログへの掲載を再開しました。

 そうして、エル・ライブラリーを開館し、私が担当になってからのブログの雑誌目次記事が先日500回を迎えたのでした。(続く)(千本沢子<ちもと・さわこ>)

所蔵資料紹介~辻󠄀保治資料(近江絹糸紡績労働組合関係資料)

連載第8回 職場新聞(1)

 

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 職場新聞は、近江絹糸紡績各工場の職場単位で刊行されている新聞である。ここで言う「職場」とは、絹糸紡績、綿・スフ紡績等それぞれの製造工程(製綿、精紡など)と対応している。辻資料に含まれている職場新聞は彦根支部のものが16タイトル、他支部を含めると、19タイトル112号分に上る。発行年代は最も早いもので、1956年2月の『蛹粉の中で』創刊号(絹紡製綿)、『ほのお』創刊号(絹紡ガス焼)、残存している最も新しいものは、1958年2月の『じんし』第7号(人繊仕上)である。また、下記の表は、1957年当時、発行、または準備されていた職場新聞の一覧である。

 《表1》

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 職場新聞は「らくがき運動」を通じて落書き帖などに書かれた労働者の声、要求、文芸作品などを編集したもので、各職場に編集委員会が組織され、その指導や支援は支部教文部が行った。

 

写真 (『蛹粉の中で』[B122]7号-4頁構成の典型的なものとして、1~4面を掲載) 

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 具体的な職場新聞の体裁は、B4判縦型、手書き謄写版による2面または4面の表裏印刷であった。職場にもよるが、概ね1カ月に一度の発行で、1・2面に職場についての要求や各担当間での苦情や要望、3・4面など後ろの面には、詩や生活雑感などが掲載される傾向にあった。

 彦根支部では、らくがき運動、職場新聞の発行を通じ、職場単位の要求闘争が盛んになり、1956年12月、支部執行委員会が、職場闘争委員会体制を採用し、団体交渉権と妥結権を職場に委譲することとなった。翌年4~5月には9職場が合計11回の職場要求の申し入れと団体交渉を行っている*1

 一方、1957年頃から表面化した近江絹糸の経営合理化、再建を巡る方針の違いから、近江絹糸労組は分裂した。翌年3月、再統一したものの、辻氏をはじめ、反主流派の活動家が多くかかわっていた職場闘争は消滅し、職場新聞のほとんども廃刊となった。

(下久保 恵子 エル・ライブラリー特別研究員)

 

 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

*1:職場闘争組織の変遷については、島西智輝・下久保 恵子・谷合佳代子・梅崎修・南雲智映「1950年代日本の労働運動における文化活動と職場闘争―人権争議後の近江絹糸紡績労働組合の事例-」(『香川大学経済論叢』第87巻第1・2号,2014)91頁参照。

新着雑誌です(2021.2.18)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労政時報 4008号 2021.2.12 (201388519)

労務事情 No1420 2021.2.15 (201388634)

月刊人事マネジメント 362号 2021.2.5 (201388576)

労働判例 No1233 2021.2.15 (201388667)

労働法学研究会報 No2734 2021.2.1 (201388683)

労働法学研究会報 No2735 2021.2.15 (201388717)

労働経済判例速報 2434号 2021.2.10 (201388543)

賃金と社会保障 1771号 2021.2.10 (201388600)

 

詳細な目次はこちら

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3月13日までの運営状況について

 2021年1月13日に大阪府全域に発出された「緊急事態宣言」が3月7日まで延長されました。これに基づき、また、ご利用者とスタッフの安全のために、3月13日(土)まで以下のように運営いたします。

 なにとぞご理解賜りますよう、お願い申し上げます。

(1)金曜日の夜間開館を休止します。

(2)バザー・古本市を休止します。

(3)ご来館前にできるだけご予約ください。

※なお、上記とは関係なく臨時休館日とする場合がありますので、エル・ライブラリー

トップページ下部に掲載している開館カレンダーをご確認ください。

 また、当館ご利用の皆様にできるかぎり外出を控えていただけるよう、コロナ禍対策として以下のサービスを期間限定で行います。

【3月13日までの期間限定サービス】郵送貸出は送料無料、複写物も送料無料

1.図書・雑誌・DVDの郵送貸し出しの送料を先着8名様まで無料とします。資料を借りられるのはサポート会員様のみです。
 ※貸出できない資料もあります。詳細はお問合せ - エル・ライブラリーのページからお尋ねください。 
2.雑誌記事のコピーなど複写物の送料を無料とします。非会員にも適用します。
 郵送複写料金は平常通り、1枚20円(非会員50円)です。 

 

『「オール大阪」市民の勝利 2020.11.1住民投票活動記録集』

明るい民主大阪府政をつくる会大阪市をよくする会(2021年1月 A判80頁)

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  2020年11月11日、大阪市民は、「大阪市廃止・特別区設置」の是非を問う2度目の住民投票に、17,167票の差をつけて、大阪市廃止=「都構想」否決の意志を示した。

 本記録は、都構想反対の多様な市民運動が展開された中、「明るい民主大阪府政をつくる会」・「大阪市をよくする会」合同の「共同闘争本部」が発刊した、オールカラーの記録集である。この歴史的な市民運動の記録が、「大阪市民の良識と共同による歴史的勝利」として、両会が作成し配ったビラやポスター、バナーなどの膨大な宣伝物、一方の推進派=維新の会・公明党の宣伝物、新聞論評などを記録として残し、市民(府民そして、民主主義を守ろうとする広範な人たち)と共有できるようにしたことの意義は、社会運動史的にも大きいと言える。知恵を絞った沢山のビラの中でも、難波橋のライオン像が「大阪市なくなってほんまにええんか、よー考えてや ライオン」と吠えているビラ(長谷川氏イラスト)は、特に印象に残る。「反対」を押しつけるのではなく、真実の情報を伝え続ける「情報提供型」の宣伝に徹したと、さらに、「なんかせなアカン」という市民の自発的な行動参加が目立ったことも特徴として記録されている。

 維新の会の「都構想」にかける企図と白々しい宣伝もさることながら、住民投票の中立性を保障しなければならない「行政の公平・中立性」をかなぐり捨てた暴挙も記録として残さなければならない。(伍賀 偕子<ごか・ともこ> 元「関西女の労働問題研究会」代表)

 

 なお、エル・ライブラリーでは「都構想」をめぐる住民投票に関する資料を後世に残すべく、反対運動に立ち上がった市民グループの「大阪・市民交流会」(平松邦夫・中野雅司共同代表)が収集・発行したチラシや宣伝物なども同会から受贈しています。

 賛成反対両派の記録をアーカイブすることが資料機関としての使命です。さまざまな団体・グループ・政党・労組などがかかわったこの運動については、さらに資料を収集していく予定です。大阪・市民交流会の資料については未整理なので、閲覧ご希望の場合はフォームhttps://shaunkyo.jp/contact/から事前にご予約ください(館長・谷合佳代子追記)。

 

新着雑誌です(2021.2.4)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労務事情 1419号 2021.2.1 (201388493)

企業と人材 No1096 2021.2.5 (201388527)

人事実務 No1217 2021.2.1 (201388550)

労働判例 No1232 2021.2.1 (201388485)

労働経済判例速報 2432号 2021.1.20 (20111388584)

労働経済判例速報 2433号 2021.1.30 (201388618)

賃金と社会保障 №1769・70 1月合併号 (201388642)

地域と労働運動 245 2021.1.25 (201388675)

労働基準広報 No2053 2021.2.1 (201388709)

 

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『被差別部落女性の主体性形成に関する研究』

 熊本理抄 著 (解放出版社/2020年3月/A5判468頁)

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 著者は近畿大学人権問題研究所教員で、博士(人間科学)。本書は2017年に大阪府立大学より博士を授与された同名論文を基にしている。

 前職は「反差別国際運動日本委員会」(IMADR-JC)専従職員を経ての事務局長で、そのキャリアが本書における部落解放や女性解放の普遍性追求に、深く反映されている。

 構成は以下の通りであるが、一つ一つの「概念」についての形成過程や先行研究の検証を含めて丁寧な展開で、学ぶことが多い大部な研究書であるだけでなく、読者自らの立ち位置を問われる鋭い問題提起が一貫してなされている。

第1章 問題の所在

第2章 部落民であること―被差別部落女性の聞き取りから

第3章 女性であること―被差別部落女性の聞き取りから

第4章 被差別部落女性の主体性形成における運動の役割

    ―部落解放全国婦人/女性集会の資料分析から

第5章 国際人権言説とブラック・フェミニズムの「交差性」概念

第6章 被差別部落女性の主体性形成における「複合差別」概念の有用性と課題 

 本書の研究テーマである部落女性の主体性形成についての「主体性」という言葉の定義は、部落解放同盟が提唱してきた、部落民としての「社会的立場の自覚」が近似の概念であるが、本研究において「主体」ではなく「主体性」を採用するのは、「社会的立場」ではなく「自覚」を重視するからで、自らの社会的立場をいかに認識し受け止め引き受けていくか、自らが置かれている社会的立場を生かし社会を変える努力をするか、その力と行為に焦点をあてるため、「主体」ではなく、「主体性」を採用する ― という前提である。

 第2章・第3章では、福岡県の17地区における90人の聞き取り資料から、部落女性の主体性がいかなる過程をたどり形成されるのかを分析している。そして、部落解放運動および部落コミュニティのジェンダー体制と支配―従属関係のなかで、従属的主体性(subjectivity)の変容を部落女性が自覚し自己と共同性を変革しようとするときに初めて、能動的な行為主体性(agency)の形成が促されると指摘している。「部落解放運動に育てられた」と自負する著者だからこそ聞き出せたこの膨大な聞き取りが、本書の価値と説得性をもたらしていると言える。

 第4章では、時系列に沿って、部落解放運動と女性たちの主体性形成の追求について明らかにしている。部落民としての主体性形成には有効であっても、女性としての主体性形成の追求には限界がある差別認識と解放理論を克服するには、さらに、部落女性不在のフェミニズム(距離がある、齟齬があると)に対して、部落女性の主体性形成を主軸にすえる差別認識と解放理論を部落女性の経験から構築するには、自前のフェミニズムの構築が課題であると。

 部落解放運動の女性たちは、実体験から生まれる部落女性の差別認識と実践を理論化し正当化することになった女性差別撤廃条約に、運動の方向性を見出すとともに、第4回世界女性会議(北京会議)を経て、「エンパワメント」(力をつける)概念を通して、アジアの女性とつながる可能性を見出した。そして、もうひとつ、「複合差別」(Compound discrimination)という差別のとらえ方に学び、注目する。そして、2002年の部落解放同盟の運動方針には、「複合差別」概念が登場する。部落差別を受けさらに女性差別を受けるといった「加算的」分析では課題が残る。複数の差別の「交差性」(intersectionality)概念と、交差するところに現出する「複合差別」概念は、部落女性が生きる場の権力関係や社会的抑圧を解明し、主体性形成を追求するうえでの理論と実践として有効であるというのが本研究の結論である。

 部落差別と他の差別との共通性、他国との普遍性の追求によって、真の意味での「連帯」が可能であって、本研究はその導入の道筋を探求したものだと思う。(伍賀 偕子<ごか・ともこ> 元「関西女の労働問題研究会」代表)