エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『六〇年安保闘争と知識人・学生・労働者 社会運動の歴史社会学』

猿谷弘江 著(新曜社/2021年3月/A5判392頁)

六〇年安保闘争と知識人・学生・労働者 

 著者が語る「研究の動機」は、~60年安保闘争のように大きな社会運動がなぜ起こりえたのかに興味をもった。しかし「歴史的な規模」といえるほど大きかった社会運動について、先行研究はおどろくほど少なく、「知りたい」「解明したい」と思ったこと~である。著者は、日本の大学を経て、ミシガン大学大学院博士課程で社会学を学び、2008年から一時帰国して、フィールドワークをはじめ、延べ人数にすれば100人あまりの人々(著者によれば実数は64人)に丹念にインタビューして、当時の雰囲気を再現しつつ多面的に分析した著作である。ミシガン大学社会学部提出の博士論文をもとに、新たなデーターと知見を加えて執筆されたものである。本書の第3章のもとになった論文は、2012年アメリ社会学・大学院生最優秀論文賞を受賞している。

 著者は2017年より上智大学准教授で、専門は、歴史社会学、政治社会学、社会運動論。

 今では伝説のように語られる60年安保闘争であるが、インタビューの蓄積が、著者の研究から到達した方法論に基づいて、分析され一般化されている。

 本書では、社会学ピエール・ブルデューの「フィールド」(界)の理論(この解説は序章で詳しく述べられている)を用いて分析し、「社会運動」を、「社会についての競合する理想や考えに関する闘争(struggle)であり、行為者がその主張を集合的な動員を通じて訴える集合的行為」と定義している。

  400頁に近い膨大な論考の構成は、以下の通りである。

序章 六〇年安保闘争へのアプローチ
第1章 「社会運動の空間」の歴史的発展
第2章 戦後知識人の「公共的活動」
第3章 学生運動の興亡と覇権闘争
第4章 労働運動と「政治闘争」
終 章 それぞれの闘争としての六〇年安保闘争

  3つのフィールド(界)とも、六〇年安保闘争時に至るまでの戦後日本の民主主義における歩みが丁寧に紐解かれている。特に第2章の進歩的知識人が果たした役割については、「平和問題談話会」において、イデオロギーをこえて知識人が協調して取り組んだ政治運動をはじめ、雑誌『世界』が果たした役割などを追跡した上で、六〇年安保闘争が、知識人としての活動を最大限に開花させた歴史的なイベントであったと。学生運動と労働運動は、以降も発展していくが、日本の知識人が政治的な運動にこれほどの規模で参加したことは、後にも先にもないと断定している。安保条約の強行採決時には、政府に抗議して大学の職を辞したものも居るほどであったと。

 第3章の学生運動では、全学連主流派(ブント=共産主義者同盟)の動きを中心に記述されているが、党派としての運動ではなく、自治会を通しての大衆的結集によってこそ、国会包囲や突破の躍動的な展開が可能だったので、6.15の「樺美智子の死」の背景も浮かび上がる。学生の大衆的結集という点からすれば、反主流派(「都自連」⇒60年後半は「全自連」)の動静も、6.10の「ハガチー事件」にも象徴されるように、知りたいと思うところである。

 第4章の労働運動では、戦後すぐから、政治闘争と経済闘争が分かちがたいものとして取組まれた歩みが追跡され、特にナショナルセンターとしての「総評」の分析が詳しい。六〇年安保闘争は、「安保阻止国民会議」(総評、日本社会党などの呼びかけで134の団体が参加、日本共産党もオブザーバーではあるが幹事団体)が22回の統一行動を提起し、何百万人という国民的大結集が、国会周辺だけでなく、全国各地で重ねられている。そして特筆すべきは、街頭抗議行動だけでなく、焦点の6月には、3回にわたるゼネストが生産点で取組まれたことである。

 六〇年安保闘争を、上からの動員指令ではなく、草の根から湧き上がるような参加と高揚があったことが、「声なき声」のデモ隊列も生まれたように、いくつものインタビューから、うかがい知れる。そして、その高揚は、歴史的に形成されたそれぞれの運動のフィールドのダイナミクスの中で形成されたとみる著者の歴史的分析が興味深い。

 若い世代への著者のメッセージは、「日本にもこれまで数多くの社会運動があったこと、そしてそのなかには、何十万、何百万という人びとが抗議行動に参加した社会運動があったということを知ってもらえたら幸いに思う」と結んでいる。(伍賀 偕子 ごか・ともこ 元「関西女の労働問題研究会」代表)

※本書はエル・ライブラリーの資料活用成果でもあり、当館への謝辞が記載されています(館長谷合佳代子追記)。

所蔵資料紹介~辻󠄀保治資料(近江絹糸紡績労働組合関係資料)

連載第10回 職場新聞(3)『蛹(さなぎ)粉(こ)の中で』その2

 絹紡製綿職場の主な担当の内、「切綿(せつめん)」「円型(えんけい)」「粕取(かすとり)」は担当の台(機械)を持つため「台付(だいつき)」と呼ばれ、台から離れるのが難しかったので、トイレに行くのにも苦労した。

 『蛹粉の中で』には、台を離れ、休憩する時間の制度化やそのための人員確保についての記事が見られる。f:id:l-library:20210415113437j:plain

『蛹粉の中で』2号(1956.3.20発行)1面より)

 

「週に一度位台離れをさせてほしい

台付ですが、毎日毎日台についてばかりいると、自然とあゝ今日も又台付か…?と思うようになる

ですからせめて一週間に一度位台につくのを交替にしてほしい」

 『蛹粉の中で』6号(1956.8.17発行)では班長、組長などの役付労働者が、交替要員となって台交替し、1日2回の休憩を取る制度が確立されていたことがわかる。

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『蛹粉の中で』6号1,2面より 

B→Aに転番した四人の同志よ

十三台を目標に、今こそ安心して働ける様になった職場、二回の台交替時を、私は楽しみに出勤している。それなのにこぞっと四人私の同志が、転科してしまうのだ…(中略)待ち遠しい台交替ではあるけれど、一回にがまんしても友情で助け合って、固い団結で進もう、お互いのしあわせのためにも」(1面) 

「◇組長さんに一言、時間の終りによく台交替よ…て、くるんですけど、いつもいっしょの人ばかりで時には別の人にも変わって下さい。」(2面) 

 さらに、翌年2月15日に発行された『蛹粉の中で』10号では、台交替のための人員として、役付労働者に加えて、台付労働者が順番に「台ばなれ」という担当台を持たない補助的な係につく仕組みができていたことがわかる。

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『蛹粉の中で』10号(1957.2.15発行)1面より 

順番にさしてね

 最近の台交替について一言

近頃、台交替は、バラバラになっていますがどうしてあんなになってしまったのか、今日は、台ばなれだと思って出勤すると、なんと段取表をみてみたら、台付じゃあ、ありませんか、楽しみに出勤しますから、台交替は、変ることのないよう、台ばなれをさして下さいね、」 

「台交替」「台はなれ」の要求についての記録は、当時の彦根支部大会報告などには見られない。職場が独自に職制と交渉を重ね、問題を解決していった様子がうかがわれる。

 

(注)台交替、台はなれの実情等については、当時、製綿職場で働いていた入江(旧姓鹿島)スナヱさんにご教示を得た。感謝いたします。

 

(下久保 恵子 エル・ライブラリー特別研究員) 

 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

新着雑誌です(2021.4.14)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労政時報 4011号 2021.3.26 (201112729)

労政時報 4012号 2021.4.9 (201112760)

賃金事情 No2820 2021.2.20 (201112919)

賃金事情 No2821 2021.3.5 (201112943)

労務事情 No1423 2021.4.1 (201112737)

人事実務 No1219 2021.4.1 (201112570)

企業と人材 No1098 2021.4.5 (201112661)

月刊人事マネジメント 364号 2021.4.5 (201112885)

労働法学研究会報 No2737 2021.3.15 (201112695)

労働法学研究会報 No2738 2021.4.1 (201112604)

労働経済判例速報 2438号 2021.3.20・30 (201112638)

労働判例 No1236 2021.4.1 (201112794)

賃金と社会保障 1774号 2021.3.25 (201112828)

 労働基準広報 No2059 2021.4.1 (201112851)

 

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『日本を変える~「新しい政治」への展望』

『日本を変える~「新しい政治」への展望』

五十嵐 仁(学習の友社/2020年12月/124頁)

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 本書は、学習の友社から刊行する著者(法政大学名誉教授、大原社会問題研究所名誉研究員)の四冊目の本である。一冊目は『対決 安倍政権』、二冊目は『活路は共闘にあり』、三冊目は『打倒 安倍政権』であり、今回の執筆の意図は、~「安倍なき安倍政治」としての菅後継政権を倒して野党連合政権を樹立させることで「新しい政治」を実現し、「日本を変える」展望を示しました。市民と野党の共闘の発展によって、このような「希望の政治」を実現する可能性が大きく膨らんで来たからです ~ と述べている。

 全体は、2部6章と補章による構成で、ほとんどは2020年前半に発表の論攷だが、菅政権発足を踏まえての加筆修正がされて、第2章の「新しい政治への展望~『ポストコロナの時代』にどのような政治が求められているのか」は書き下ろしである。

 菅政権発足に対して、「安倍亜流政権の存続を許さず歴史的な審判を」と規定して、安倍政権の歴史的位置を丁寧に検証している。「アベノミクスの虚妄」「外交・安保政策の漂流」「立憲主義の破壊と政治の腐敗」の各論ごとの検証は、今も継承されている政策・施策であり、改めて怒りが蘇ってくる。そして、その「最長にして最悪・最低の政権」(=国政選挙6連勝と内閣支持率の安定)をもたらした要因の分析も、説得性がある。なかでも、「教育による若者の取り込み」については、今後の展望に関わって注目すべき指摘である。

 本書に示された展望は、「市民と野党の共闘の発展」であり、第6章において、2019年参院選挙(安倍政権最後の国政選挙)の検証を通して、切り拓かれた政治的局面が明らかにされている。この選挙はメディアによれば、自公の勝利となっているが、選挙前の通常国会で3か月も予算委員会を開かず、野党の追及を避け続け、選挙後も臨時国会の召集を遅らせ、野党による閉会中審査要求も渋って論戦を避け続け、メディアも「争点隠し」を続けた。選挙の結果は、投票率48.8%で戦後2番目の低さとなり、投票所が最多時より6,400カ所も減り、投票時間の繰り上げもあったが、自・公合計は、参院過半数議席を維持した。しかし、自民党は9議席減となり、参院での単独過半数を割り、比例代表の得票を240万票も減らした。そして、比例代表での議席は与党26:野党24だが、得票率は、与党48.42%:野党50.12%となり、1.7ポイント野党が多くなった。最大の注目点は32ある一人区で、野党共闘が大きな成果を収めたことである。野党共闘の「上積み効果」が生まれ、比例代表で野党4党の得票合計よりも29選挙区で上回った。市民と野党の共闘統一候補が新たな受け皿となって、新しい革新無党派層を誕生させたと。

 市民と野党の政策合意がその大きな勝因となった。「野合にすぎない」という批判に対しては、この政策合意の進展を検証すれば、その批判は当たらない。その出発点は、2016年参院選に向けての「5党合意」で「安保法制の廃止」だったが、2017年総選挙では、「市民連合」が7項目の「共通政策」を野党に提示した。―①9条改憲反対 ②特定秘密保護法、安保法制、共謀罪法などの白紙撤回 ③原発再稼働を認めない ④森友・加計学園南スーダン日報隠蔽の疑惑を徹底究明 ⑤保育、教育、雇用に関する政策の拡充 ⑥働くルール実現、生活を底上げする経済、社会保障政策の確立 ⑦LGBT(性的マイノリティー)への差別解消、女性への雇用差別や賃金格差の撤廃―

 そして、今回の「共通政策」は、13項目となり、新たに加わったのは― ①防衛予算、防衛装備の精査 ②沖縄県新基地建設中止 ③東アジアにおける平和の創出と非核化の推進、拉致問題解決などに向けた対話再開 ④情報の操作、捏造の究明 ⑤消費税率引き上げ中止 ⑥国民の知る権利確保、報道の自由の徹底―の6項目である。

 著者は、これらの動きは、新たな連立政権に向けての政策的な基盤を示すものだと。

 さらに、国政レベルだけでなく、地方の首長選挙での市民と野党共闘候補の前進もこの方向性に弾みをつけている。「市民と野党の共闘」は「勝利の方程式」であると、明るい展望を示している。(伍賀 偕子<ごか・ともこ>)

第1回フォーラム 「21世紀の大阪を読み解く ―『大阪社会労働運動史』最終巻刊行に向けて―」

日時:2021年3月27日(土)14時~16時30分

開催方法:オンライン(ZOOM) 

開催趣旨:

 1986年の第1巻刊行以来40年をかけて編纂し続けている『大阪社会労働運動史』は、いよいよ第10巻を以て最終巻となります。2024年3月の刊行を目指して、6名の編集委員を含む60名近い執筆者が2018年12月から研究・編纂を開始しました。

 明治時代以降の大阪の経済・社会・労働運動の変化を追い続け、後世に残る歴史書として編纂した本シリーズは、9巻までで総ページ数9000を超える大部なものとなりました。第10巻では、21世紀の大阪を同時代史としてとらえていきます。最終巻でもあり、これまでの総括としての近現代大阪史を概観する章も設ける予定です。

 今回のフォーラムでは、基調講演によって大阪の戦後経済史を振り返り、その特質を明らかにします。その後、6人の編集委員が第10巻のねらいについて語ります。

 

【次第】(予定)

14:00 開会

14:03 主催者挨拶 公益財団法人大阪社会運動協会理事長 田中宏和

14:05 基調講演 沢井実「戦後大阪経済史点描―復興・特需、高度成長、そして大阪万博後の半世紀―」

14:55 質疑応答

15:05 休憩

15:10 討論 編集委員6名『大阪社会労働運動史』各章のねらい(各章7分)

 質疑応答

16:20 まとめ

16:30 終了

 

 参加申し込み:専用フォームからお申込みください。

       参加者には開催2日前にZOOM情報をお知らせします。

締め切り:2021年3月20日⇒3月25日まで延長

定員:100名(定員になり次第締め切ります)

参加費:無料

主催:公益財団法人大阪社会運動協会

お問合せ:https://shaunkyo.jp/contact/

チラシダウンロード:https://shaunkyo.jp/files/flyer_forum1_20210327.pdf

  編集委員と担当章 

タイトル

担当編集委員

所属/肩書

第1章

経済・経営の動向

沢井 実

南山大学大阪大学名誉教授)

第2章

産業技術と職場の変化

廣田 義人

大阪工業大学

第3章

雇用労働をめぐる諸相

久本 憲夫

京都大学

第4章

労働運動

山田 和代

滋賀大学

第5章

労働・福祉政策

玉井 金五

愛知学院大学大阪市立大学名誉教授)

第6章

社会運動

伊田 久美子

大阪府立大学名誉教授

 

感謝!500回(その3)

当法人の来年度の予算理事会が昨日終了しました。財政規模の小さい当法人でも予算の作成はなかなか手間がかかって―特に公益法人会計の独特さが難しく―解釈について喧々諤々したり、数字のバランスに四苦八苦したりとしておりました。

このような図書館運営以外の業務もいろいろある中で、雑誌の目次を取りながら中身をパラパラと読む時間を作れているのはひとえにボランティアスタッフのおかげです。

エル・ライブラリーには常時参加してくださっているボランティアが10名ほどおられ、そのうち5名ほどは毎週きてくださっています。

毎週きてくださるうちのおふたりは公共図書館を退職された方々で、データ入力・ラベルなどの装備・配架・出納・書架整理・重複チェック・除籍と図書館的な業務をほとんどこなしていただいています。

エル・ライブラリーが図書館としてなんとか機能しているのはこのおふたりのお仕事があればこそです。また、おふたりとも淡々と作業されているのですが、その正確さ・緻密さは驚くばかりです。

他のボランティアスタッフにも種々のこと、困難なことをお願いしては快く引き受けていただいています。

エル・ライブラリーがなんとか機能し、当法人が運営しつづけていけるのは、ボランティアスタッフの皆さんのおかげなのでした。

雑誌記事目次ブログ記事を支えているのはボランティアスタッフの存在です。 ただただ感謝ばかりです。(了)千本沢子

 

※エル・ライブラリーのボランティアスタッフについては『図書館界』(2018年70巻2号 p.385-390)で報告させていただきました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/toshokankai/70/2/70_385/_article/-char/ja/

新着雑誌です(2021.3.23)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労務事情 No1422 2021.3.15 (201169000)

労働経済判例速報 2437号 2021.3.10 (201168945)

労働判例 No1235 2021.3.15 (201112620)

季刊労働法 272号 2021.3.15 (201112562)

賃金と社会保障 1773号 2021.3.10 (201112596)

労働基準広報 No2058 2021.3.21 (201112711)

 

詳細な目次はこちら

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