エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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半世紀、図書館を生きる

 今年の4月から始めたシリーズ「次代を紡ぐ伝記資料紹介」は、当館が所蔵する伝記のうち、市場にあまり流通することのない本や私家版のものを積極的に紹介しています。おかげさまで反響があり、日本図書館協会理事長・塩見昇氏から『半世紀 図書館を生きる』という自伝を頂戴しました。
 4月に頂戴した本の紹介がずいぶん遅くなって申し訳ありません。この本を読んで、ついつい興味が広がり、あれこれと手を出して読んでいるうちにご紹介が遅れてしまいました。
 言い訳はともかくとして、塩見先生といえば、わたしにとっても先生であります。社会人になってから講習を受けて司書の資格を取った谷合は、1990年に桃山学院大学で行われた夜間の講習を受けました。そのときの教授陣のお一人が塩見先生でした。この司書講習は2児の妊娠・出産の最中であったこともあり、わたしにとっては苦労の連続で、乳児を抱えて受講し、結局3年がかりで漸く司書資格をとったのでした。塩見先生の自伝を読みながら、そんなことを懐かしく思い出しました。

 本書は48ページと短いものであり、すぐに読めるのですが、その中に書かれていた著者の『日本学校図書館史』に興味を惹かれ、併読しているうちに時間がかかってしまいました。
 ではまず、『半世紀 図書館を生きる』を紹介しましょう。本書は古稀記念のさまざまな事業を手がけてくれた人々への返礼として、著者が出版した私家版です。著者塩見昇氏(1937年生まれ)は京都大学教育学部卒業後、大阪市図書館の司書として10年勤めた後、大阪教育大学で教鞭を執ることとなり、2002年に定年退官。その後、日本図書館協会理事長や日本図書館研究会理事長などの要職を歴任し、現在に至っています。
 本書では、大阪市図書館員時代の思い出から始まって、大学教員への転職、図書館界の専門団体である図書館問題研究会(図問研)などでの活動について語られています。大阪市図書館が立ちあがったばかりのころの息吹が感じられると同時に、著者が自治体労働者として労働運動に没頭していた様子がまた興味深いです。ちょうど著者が就職した時代が1960年の安保闘争の頃であり、青年労働者として連日のように安保反対のデモに出かけていた、というのも時代を感じさせます。
 調査相談室での勤務は開架室の中のガラス張りの一角で、「金魚鉢」と呼ばれていたというのが面白いです。レファレンスの事例集を冊子にまとめたのはおそらく日本で最初ではないかということも述べられています。市民と手を携えた図書館活動は、公共図書館が地域住民の宝となっていく創生期の醍醐味があるのでは、と感じました。何もないところから苦労して運動を重ねてきた第一世代のエネルギーが一番まぶしさを感じさせると、ある意味羨ましくも思います。
 著者は10年の図書館員時代を経て大阪教育大学図書館学を教えることになるのですが、その転職のきっかけは、何か大きな決意があってということではなく、むしろ周りの勧めに流されたようであるのは意外でした。案外に人生の転機というのはそういうものかもしれません。
 そんなふうに大学教員になったわけなので、当初、持ちネタがないのがつらかった、というのはよく理解できることです。予備知識のなかった「学校図書館」の講義を持たされて四苦八苦した様子もほほえましく、やがてその後の研究成果は『日本学校図書館史』(1986年)という労作に結実します。
 大学での研究、学生との学び、夜間大学院の開設、といった教員生活に加えて、図書館団体での幹部の仕事にも言及されている『半世紀…』は、この短さにしてはずいぶん内容の濃いものとなっています。図書館をめぐる叙述に禁欲されているので私生活への言及は最低限にとどめられ、自伝としては物足りない面もありますが、それは本書の目的とするところではなく、また別のところでお書きになることでしょう。本書は48ページの小冊子なので、ぜひ改めて詳しい伝記を読ませていただきたいものです。

 本書を読み終わって、『大阪教育大学ですごした31年』(2002年)など、著者の他の回顧録も何冊か読んでみました。『大阪教育大学で…』も小冊子ですが、大学の教え子たちからのアンケート回答集という体裁をとった面白い本です。第1部が塩見教授の求めに応じて元学生たちが当時を振り返る回顧録集であり、第2部が塩見氏による回想で、これは『回顧 天王寺21年』(1992年)の続編です。図書館学を修めた学生たちの進路も様々で、こういう回顧録の試みも面白く感じました。

 紹介した自伝の書誌詳細は以下のタイトルをクリックしてご覧ください。

 さて、伝記資料ではありませんが、わたしが個人的に惹かれたテーマであった塩見昇著『日本学校図書館史』(全国学図書館協議会、1986年、図書館学大系5)について簡単にご紹介しましょう。残念ながらエル・ライブラリーはこの本を所蔵していませんが、本書は日本に近代的学校が設置されて以来の学校図書館の歴史を網羅する最初の研究書です。叙述対象時期は大半が明治から昭和戦前期までですが、個別の先行研究がほとんどないにもかかわらず、このような労作をものされた著者の努力には頭が下がります。
 本書を読めば、学校図書館の歴史はすぐれて学校教育の歴史であることがわかります。と同時に、学校の中だけにことは完結するのではなく、教師の自主的な教育運動があったこと、軍国主義の困難な時代に教師達が血のにじむ努力をして子ども達に教科書以外の本を読ませようとしたことや「綴り方運動」を実践したことが述べられています。本書で言及される、1930年に設立された左翼的教育運動機関「新興教育研究所」の機関誌『新興教育』は1980年に復刻版が出版され、当館でも所蔵しています。その他にも関連資料があるので以下に掲載します。(谷合佳代子)

<エル・ライブラリーが所蔵する関連図書

  • 新興教育 新興教育復刻版1巻

  • 新興教育 新興教育復刻版4巻

  • 新興教育 新興教育復刻版3巻

  • 新興教育 新興教育復刻版5巻

  • 新興教育 新興教育復刻版刊行委員会編白石書店2巻

  • 新興教育 新興教育復刻版6巻

  • 新興教育 新興教育復刻版7巻

  • 新興教育 新興教育復刻版別巻

  • ソヴエート同盟に於ける文化革命 新興教育研究所ソヴエート教育研究會譯編