エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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所蔵資料紹介~辻󠄀保治資料(近江絹糸紡績労働組合関係資料)

26. 職場新聞(19)お笑い

 職場新聞には、肩の力の抜けたお笑い記事もある。
運搬車ガール
ガール「皆様こちらは晒練でございます」
おばあさん「あんれまあくさい所ですねえー」
ガール「たヾいまから発車致します。皆様気をつけて下さい
では発車―」
歌 晒練道はガタボコで、ちょっとでもボサッとしているとひっくりかえる
ガール「そちらにみえますのは、洗濯場でございます」
おばあさん「ほほ……う」
ガール「それからこちらにみえますのは晒練で最も名高いフカソ(注1)でございます。これは今から三百年ほど前に、出来たものだそうでございます」
おばあさん「なるへそなあーなかなか美しいですなァー」
ガール「では大体終りましたのでこれからフカソの中に二日程とまっていたゞきますので皆様ごゆつくりお休み下さい」
おばあさん「ではお休みなさい」
ポタン
(これは器生(注2)の事を云っておるのです)では又来週  Y.K.」(絹紡晒練『晒練職場新聞』11号4面)

 辻󠄀保治資料中の『調査月報』NO.5(近江絹絲紡績労働組合調査部発行)所収「県別在籍人員調査表(1955年4月度)」によれば、彦根工場の労働者2,133人の出身県は、一位が鹿児島県399人、二位が宮崎県208人、三位が秋田県164人となっている。その他、100人を超えているのは、島根県愛媛県滋賀県と、彼らの故郷は北海道を除く全地域に散らばっていた。
 寮の部屋で交わされるお互いの方言はさぞ珍しかったことだろう。
お国なまり
鹿児島「キュウ ヨカ テンキジャゴワハンナ」「ホンニ ヨカテンキゴワヒナ」
長野野(ママ)「コノカキャァ、アケーガ シビーズラ」
名古屋「ゴミャース」「オイデヤス」「アツイナモ」「フントニ ドーニモナランギャイモ」
宮崎「コラッ ワヤ ドキイットヨ」「オイカ、■■サキノバアサンカテ」「エーホンナラ イタッキョ」
江戸ッコ弁「ケンチャン マッテテヨ スグダカラサ」「ヤーダナアイッチャウヨ」「ジャーイッチメー アトカラ スットンデクルカラナ」
山形「オラーシャーネッータ」
 ☆お国なまり☆[標順(ママ)語]
鹿児島「今日はよい天気ではないですね」「本当によい天気ですね」長野「この柿は赤いがしぶいなあ」名古屋「御免下さい」「いらっしゃい」「暑いですね」「本当にどうしようもありませんね」宮崎「おい、君どこにいくのか」「わしか、私はそこの先のおばさんの所」「あゝそうか、行ってこい」(絹紡晒練『晒練職場新聞』14号2面)

 笑いばなしには、他愛のないものもある一方、労働者の状況や時代を映すものもある。
「笑いばなし
次郎「お父ちゃん」
父「なんだい次郎」
次郎「お父ちゃんの頭 はげてるネ
父「お父ちゃんは小さい時苦労したからだヨ」
次郎「ホント。そこににあるやかんも、小さい時苦労をしたのネ」
父「……」   (綿・スフ紡仕上『じんし』6号2面)

「笑話
現在の食事
工場長「今朝の飯は麦よりも三十粒多い、不経済だ」
水炊係「私は計量器ではありませんからね」
工場長「でもあれだけ半分にするように云ったじゃないか」。
△日本斯く戦えり
A子「天高く馬こゆる秋だね」、
B男「女心と秋の空か」、
A子「男心と秋の空よ」、
B男「ちがうよ、男心と特攻隊の空だ、思い切ったことをするから」、
△男子作業服を見て
自民党「あれは自衛隊みたいだね」
社会党「ちがうよ、自衛隊がまねしているんだ、やがて我々とスクラムを組むようになるのだ、日ソ交渉がすんだら」(絹紡ガス焼『ほのお』7号4面)

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綿・スフ紡仕上『じんし』4号3面

金時さん時評
「新人教育の不充分さ」
「お姉さんストって仕事しながらするの?」
「デモ行進したらだれか一人は死ぬでしよう?砂の女みたいに」(綿・スフ紡仕上『じんし』4号3面)

 

(注1) 腐化槽のこと。晒練では、深さ約1メートルの腐化槽が100個以上、列をなして、床下に埋め込まれていた。ソーダで煮沸・攪拌した後の原料を漬けて腐敗させ、セリシンを除去し、絹繊維の原料綿を得る。
(注2)器生(キキ)は絹糸紡績の主原料の一つ。製糸工場では、繭を熱湯で煮て、掃きたて、絹糸の糸口とするが、その際、糸口となったもの以外の諸糸をはぎとったものである。

(下久保恵子 エル・ライブラリー特別研究員)

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