エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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アメリカよりローラ・ハイン先生ご来館

 11月23日に開催された大阪大学グローバル日本学教育研究拠点主催のイベント「日本近現代史ワークショップ——Laura Heinさんを迎えて」に登壇のため来阪されたハイン先生と、グローバル日本学教育研究拠点副拠点長の宇野田尚哉先生(大阪大学大学院人文学研究科教授)と、宇野田ゼミの院生である李嘉棣さん、そして私で、22日の午後に淀屋橋の適塾を見学したのち、当館にハイン先生をご案内いたしました。

 ハイン先生が監修された『新ケンブリッジ日本史』の第3巻「近代日本と帝国主義(1868年〜21世紀)」は、1990年代に発行された旧版を大幅に書き換え、新たな日本近現代史の歴史像を描き出したものです。その詳細は末尾のリンクからご覧いただくとして、まずは大前提として「明治維新」を「Meiji Revolution」(明治革命)であると規定して、かつての(今も)日本のアカデミズムを規定する講座派歴史学と距離をとった歴史叙述を行っている点を重視したいと思います(講座派と労農派については、拙稿「講座派と労農派」山口輝臣・福家崇洋編『思想史講義【戦前昭和篇】』ちくま新書、2022年をご覧ください)。

 さらに、冷戦の崩壊前後から日本の近現代史研究の領域においても関心が寄せられるようになった「帝国」「植民地」「植民地近代」などをキーワードとしつつ、日本社会におけるマイノリティの存在をとくに重視している点は、日本語で発信される研究と英語圏での研究との距離が徐々に縮まりつつある現状を象徴しているようです。

 とはいえ、日本語で発信される研究の多くが「重箱の隅をつつきまくったあげく重箱を壊す」かのように、一次資料の精読に基づき実証性を高める方向に進んでいくばかりで、結局のところ、一般の歴史好きの読者にとっては何が何だかわからない、という状況に陥っていることは否定できません。英語圏の研究は、英語で執筆された先行研究に多くを依拠しているということもあって、実証性の部分では日本語の研究に劣るのかもしれませんが、「歴史像の大きな枠組み」を積極的に読者へと提示して、最新の研究へと誘導するアグレッシブな姿勢には、大いに学ばねばならないと感じた次第です。

 でも、日本で暮らして生の一次資料に触れ、ミクロな視点/草の根の視点から歴史を描き出す作業によっても、英語圏の歴史研究に接続することは可能だと私は思っています。実際、昨年当館を訪問してくださったアン・シェリフ先生やハイン先生ら英語圏の研究者の方々と、日本近代文学・日本近現代史を専門とする日本側の研究者が、共同で戦後日本の文化運動を主題とした英語の論文集を準備しています。私は、当館で整理をはじめている故・和田喜太郎さん(1930〜2012年)が遺された一次資料をもとに、「サークルからミニコミへ」という章を執筆しました。私の日本語の原稿をシェリフ先生が英訳してくださり、現在はハイン先生がシェリフ先生の翻訳を再チェックしてくださっているとのこと!  先生方には、お手数をおかけしてしまっています。今後は、当館の貴重な資料をより活用してもらうためにも、英語圏での情報発信を進めていきたいと無謀にも計画しています。

(30年前に英検準1級に合格したけど、あれは幻?というくらいアホになった黒川)

 

『新ケンブリッジ日本史』の詳細については以下のリンクをご覧ください。

https://www.cambridge.org/core/books/new-cambridge-history-of-japan/AFE9ABA82D905C55A2656D2B439E892B

エル・ライブラリー書庫5にて 宇野田先生(左)、ハイン先生(中央)、黒川(右)