エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『闘って正社員になった 東リ偽装請負争議6年の軌跡』

   東リ偽装請負争議原告・弁護団編(2023年11月/耕文社/A5判140頁)

 まず、本書の宣伝チラシ(なかまユニオン作成)から引用しよう。

偽装請負を告発し、2012年改正派遣法の『労働契約申込みみなし制度』で、派遣先での組合員全員の直接雇用・正社員化を勝ち取った東リ偽装請負争議。労働組合こそが働く者の権利を守る拠り所であることを示したその闘いの意義を、組合員、弁護団、支援者らで振り返る。誰でも組合をつくって闘える!中間搾取と差別雇用を放置してはならない!

 東リ偽装請負争議の勝利は、「労働契約申込みみなし制度」(派遣法第40条の6)を使って裁判闘争を経て正社員となった初の事例である。

<東リ偽装請負争議6年の概要>

★ 東リ株式会社は、兵庫県伊丹工場において、主力製品である巾木(はばき)(床と壁の繋ぎ目に使用される建材)製造の巾木工程と、接着剤製造の化成品工程で、1990年代後半頃から、原告ら労働者を偽装請負で就労させてきた。

★ 2015年夏に原告ら労働者は、偽装請負会社L社の解雇・パワハラ攻撃に対抗して、労働組合を結成し、弁護士への相談過程で、自分たちの就労状態が偽装請負であることを知り、2017年3月、「労働契約申込みみなし制度」に基づく承諾通知を東リに送付し、直接雇用を求める団体交渉を申し入れた。東リは偽装請負会社をL社から、新しく用意した派遣会社S社に労働者を移籍する過程で、組合員だけを採用拒否し、5名は伊丹工場から放り出された。

★ 2017年11月、5名は、東リに対して地位確認等を請求する訴訟を神戸地裁に提起した。2020年3月、神戸地裁は、偽装請負ではなかったと請求棄却の判決を下した。

★ 原告らは直ちに控訴し、控訴審の大阪高裁では、異例の証人調べを経て、2021年11月、1審判決を取り消し、すべての原告について東リとの労働契約関係を認めた。

★ そして、高裁判決から7ヶ月後の2022年6月、最高裁は、上告棄却、大阪高裁判決を確定させた。しかし、東リは、判定確定を真摯に受け止めることなく、5人の就労を拒否し続けた。原告らは、金銭解決を拒否して、広範な支援の輪で会社を包囲し、2023年3月27日、正社員としての就労を勝ち取った。

 失業保険が切れた後の苦境の中でも、約6年の間、団結を固めて、支援の輪を拡げ、「東リの偽装請負を告発し直接雇用を求めるL社労組を勝たせる会」(「勝たせる会」)による東リ包囲の諸行動が重ねられた。

  • 職場復帰した原告らは、「全東リなかまユニオン」として、新たな職場改革、当たり前の労働組合活動に取組んでいる。

<偽装請負事件の裁判の先例~判決の意義>

 本書は、その闘いの報告や教訓にとどまらず、派遣と請負に関する基礎的な解説も含めて、初の事例の意義を社会全体に拡げる手がかりを示す、学びの書と言える。一つの事実をめぐって、神戸地裁と大阪高裁が真逆の判断を出した比較表(119~122頁)を見れば、立証過程における原告と弁護団の尽力の跡が読み取れるし、今後に生かせる貴重な記録である。

 偽装請負とは、書類上、形式的には請負(委任、委託を含む)契約だが、実態としては労働者派遣であるものを言い、違法である。請負とは、「労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの」(民法)だが、派遣との違いは、発注者と受託者の労働者との間に指揮命令関係が生じないということが大きなポイントである。偽装請負は、労働者派遣法等に定められた派遣元(受託者)・派遣先(受注者)の様々な責任が曖昧となり、労働者の雇用や安全衛生など、基本的な労働条件が十分に確保されない。

 非正規労働者を大量に使う偽装請負形式が蔓延したのは、1990年代である。2008年のリーマンショックに伴い大量の派遣切りが起こり、2009年正月には、日比谷公園で年越し派遣村の取組みがなされて社会問題化したことを受けて、2012年民主党政権が、派遣法を改正して導入したのが、「労働契約申込みみなし制度」(=派遣禁止業務や無許可派遣、期間制限などの“違法な派遣労働”があれば、派遣先企業がその労働者に対し、「労働契約の申込みをした」とみなす制度)である。その場合、労働者が承認すれば、派遣先は直接雇用しなければならない。しかし、この規制を逃れようと、偽装請負が巧妙になり、規制を骨抜きにしようとする経営者団体の策動が続いている。そのような状況下で、雇用主の責任を負わないで労務を利用する事業者に原則に立ち戻って、雇用責任を追わせる判決を勝ち取り、5人全員の職場復帰を実現したことは、より公正で人間らしい労働の実現に向けて全国の非正規労働者に勇気をもたらすものである。

 私自身も、2009年のパナソニックPDP事件において、最高裁が雇用契約の成立を認めない判決を出した時も、東リ裁判における神戸地裁の不当判決の時も、傍聴に参加して「不当判決」と弁護団が掲げた文字に憤りの拳を挙げた想い、そして、大阪高裁前で、原告全員と弁護団の「勝訴」の喜びの瞬間(表紙になっている)に立ち会えて、久々の感激を共有したことを、今もリアルに思い起こし、本書の紹介をできることを喜びと感じている。

 「あとがき」には、「日本で初めて派遣法による地位確認の判決となったこの事件も過去の権利闘争とつながっている」と記されている。(伍賀 偕子 ごかともこ)