エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『ある在日韓国人クリスチャン家庭の百年』

 今回の寄贈本紹介は、図書館実習に来てくれた学生さんに書いてもらいました。月初めの5日間でいろいろ学んでもらい、最後は図書館展示で締めました。さらにその後、宿題になっていた「図書紹介」にも挑戦しました。以下、実習生による紹介文です。ちなみに実習生本人もワクワクしながら読んだと書いているように、本書はたいへん優れた伝記であると、ある研究者から絶賛の言葉も耳にしています。(館長・谷合佳代子)

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 戦前、戦時中、そして戦後から現代までの、林(イム)家の歴史を綴った図書です。林家は、戦前から来日している在日韓国人であり、そしてキリスト教を信仰するクリスチャンです。そのような極めてマイノリティな存在である彼らが、大阪という地で、各時代をどのように生活していたのかという記録や記憶が記されています。
 生活史というものを私は初めて読みましたが、とても面白かったです。タイトルにもあるように百年の歴史ということで、在日二世である林芳子(イムバンジャ)さんたち5人兄弟に加えて、その両親である林学周(イムハクチュ)さん、李順謙(イスンギョム)さんの人生にも、その子供時代からフォーカスを当てて記されていました。例えば、母である李順謙さんの人生をたどるには、李順謙さん本人の「証し」やメモ書きの他に、李順謙さんの子供である林芳子さんや林包球(イムボグ)さんのメモ書きや筆者に口で伝えた記憶、さらに李順謙さんの通っていた学校の書類などをあつめて、やっと語られるのです。記憶と記録を合わせて、正誤を測りながら文章にされていて、林家のドキュメンタリーでありながらフィクションの物語のように楽しめる部分もあり面白いです。私のような生活史初心者の方でも、わくわくと読み進めることが出来ます。
 在日二世である5人の子供たちは、それぞれ別の道に進むことになります。両親のように生活の中に常に信仰がある人もいれば、大きくなり、教会から離れる人もいます。5人の子供の目に両親の姿がどう映っていたのか、想像することが出来ました。
 何より、戦時中の日本をどのように生きていたのか、在日韓国人として、日本の政策の影響をどのように受けていたのか、また、日本内にとどまらず、三・一独立運動などは彼らの目にどのように映ったのかなどが、教科書で習う歴史よりもより鮮明に、息づいて浮かび上がってきました。彼らの生活を通して、当時の歴史をよりクローズアップして考えることが出来ます。また、北朝鮮への「帰国」運動と日本社会の差別状況が、教会の青年の間にどこで・何者として生きるかを考える波を引き起こしたという記載がありました。在日韓国人であることが、クリスチャンであることが、彼らの生き方・考え方にどう影響を与えたのか、彼らから見た当時の社会がどのようであったか、相互の視点で見ることが出来るのが面白いです。(実習生 俣野凛)

<書誌情報>
ある在日韓国人クリスチャン家庭の百年 : 大阪・林家の生活史 石川亮太著 かんよう出版, 2025.9