エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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新着雑誌です(2020.10.13)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労政時報 4000号 2020.9.25 (201384625)

労政時報 4001号 2020.10.9 (201384567)

労務事情 No1412 2020.10.1 (201384401)

企業と人材 No1092 2020.10.5 (201384419)

人事実務 No1213 2020.10.1 (201384443)

労働判例 No1225 2020.10.1 (201384476)

労働法学研究会報 No2726 2020.10.1 (201384500)

労働経済判例速報 2422号 2020.9.30 (201384534)

 

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『戦中・戦後の経験と戦後思想 1930-1960年代』

北河賢三・黒川みどり編著(現代史料出版/2020/A5判286頁)

書影は現代史料出版のWEBサイトより。
http://business3.plala.or.jp/gendaisi/xml_files/4-sengosiso.xml
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  本書は、「日本現代思想史研究会」のメンバーが、戦後知識人の思想を中心とする戦後思想史および戦争体験論を共通テーマに、北河賢三と黒川みどりの編者をはじめ8名が執筆している。

 目次は以下の通りである。

 Ⅰ 知識人の戦争責任論             上田美和

 Ⅱ 『婦人民主新聞』に見る戦争観と戦争体験記  井上裕子

 Ⅲ 市民の哲学者・久野収の成り立ち       北河賢三

 Ⅳ 松田道雄における市民主義の成立       和田 悠

 Ⅴ 日高六郎の学校教育をめぐる思想と運動    宮下祥子

 Ⅵ 「部落共同体」との対峙           黒川みどり

 Ⅶ 「構造改革」論の成立に関する覚書      高岡裕之

 Ⅷ 山形県における国民教育運動の展開      高木重治

 

 安倍能成松田道雄久野収丸山眞男日高六郎ら「リベラル派知識人」の戦時・戦後の経験と思想との関係を究明し、時代と社会に向き合った知識人の学問と思想の意義を明らかにしている。「戦後史、戦後思想史において、これらリベラル派知識人の果たした役割は大きかった」と評している。とくに、冷戦が激化するなかで多くの知識人が参加した「平和問題談話会」において彼らは「知識人の独立性」を重視していた。

 いま菅首相が、学者の国会と言われる「日本学術会議」の新会員任命から6名(安保法制や共謀罪などに反対表明した)を除外して、学問の自由や政権からの独立性が大きく揺らいでいる事態のなかで、本書の意義は極めて大きいと言える。

 本書のタイトルにおける「戦中の経験」は、戦争とファシズム下の抑圧の時代を生きた人びとの諸々の経験をも視野に入れて、とくに日中全面戦争以降の戦時下の経験を指している。Ⅰ>の論考では、その時代を生き抜いた知識人が「戦争責任」をどのように論じたのか、より正確に言うと、「知識人たちはそれぞれどのように戦争責任を引き受けたのか」を追跡し、戦後当初は「当事者として引き受けたとはいい難かった」、しかし1950年代後半から60年代、安保闘争ベトナム戦争への関わりを通して、「当事者意識」は生成されたと分析しているのは興味深い。

 これらのリベラル派知識人は、マルクス主義の影響を深く受けているが、戦後の一時期までの松田を除くと、マルクス主義者との自己意識はない。

 一方マルクス主義的知識人については、Ⅶ>の論考で、「構造改革派」の代表的論客として佐藤昇を中心に、「構造改革」論の思想史的意義を論じている。「ブルジョア民主主義や議会制度のもつ積極的側面に対する過小評価」のスターリン主義を克服し、日本の革新運動を発達した「現代資本主義」社会に対する運動へと「現代化」することを課題としたと。

 本書は、知識人の役割の追跡に終始しているのではなく、Ⅳ>の論考において、松田道雄が、知識人にとっての「他者」である「市民」と「市民運動」の発見によって自己を問い直すことになった過程を、彼の「ベ平連」論や「小田実」論の展開を通して論じている。

― 高度成長による社会の大衆化・平準化のなかで社会を変革しようとする「知識人」に求められるのは、「人民」を指導し、マルクス主義の革命理論によって民衆を組織化することではない ― 「人民」と目線を合わせつつ、目を凝らせば浮かび上がってくる「知識人」と「人民」の間にある社会的文化的断層を無視せずに、しかしあくまでも社会を変革していくための「連帯」=「市民運動」を構築していくことにある ― と。

 ここに列挙した知識人だけでなく、数多くの「進歩的知識人」の研究と思想が、丁寧な<注>のもとに論述されていて、非常に学びの多い書である。

 <注>の丁寧さで言えば、いささか手前味噌になるが、Ⅲの論考において、久野収が戦後すぐに、大阪の労働・市民講座で頻繁に講演したことの記録が、エル・ライブラリーの谷合館長らの教示によることと、その出典である「松本員枝の聞き書き」が注記されていることは、それを編纂した者として嬉しく、特筆しておきたい。(伍賀 偕子<ごか・ともこ> 元「関西女の労働問題研究会」代表)

当館の紹介記事や資料活用の成果

 この1年間ほど、当館について紹介・言及していただける機会が増えています。大きくは下記2種類です。さらに(2)は2つに分類できます。

(1)当館スタッフが執筆したもの
(2)外部の方が執筆したもの
  ・見学記
 ・資料活用の成果

 

 では、それぞれについて簡単に紹介します。

(1)館長・谷合佳代子が執筆

「エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)  働く人々を支え,記録と記憶を未来へつなぐ」(特集 専門図書館を利用する : 図書館のちから(2))

『労働の科学』74(8), p.478-483, 2019-08 労働科学研究所

 こちらは一年前の記事ではありますが、労働科学研究の歴史と伝統を誇る労働科学研究所の機関誌の「図書館のちから」という特集記事の中に館長谷合が書いた記事を掲載していただきました。

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 (2)外部の方が執筆したもの:見学記

 日本労働ペンクラブ関西支部支部通信』第27号 2019.8.30

 森田定和さんが書かれた、エル・ライブラリーと中之島史跡めぐりの報告が写真満載で掲載されています。 会員向けのニュースレターなのでなかなか一般の方の目に触れることは少ないのですが、当館内で閲覧していただけますし、記事の複写郵送も可能です。

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支部通信の表紙写真は大阪市中央公会堂中之島公会堂

(2)外部の方が執筆したもの:資料活用の成果など

 さらに今年になって、当館の機能や資料の活用成果として雑誌記事・論文が2本発表されています。 
  一つ目は『空襲通信』第22号(2020/08/12 空襲・戦災を記録する会全国連絡会議) に掲載された、横山 篤夫「「大阪大空襲の体験を語る会」の49年」(特集:空襲・戦災を記録する活動の50年)  です。本稿では戦争被害者たちの語り部運動の歴史と、残された体験記などの資料の行方について書かれています。市民運動団体の担い手が高齢化して資料を保存しきれなくなったり廃棄されてしまう状況が述べられており、貴重な資料がどれだけ失われたのかと思うと言葉を失います。

 そんな状況でも、民間団体「15年戦争研究会」の有志が新たに「空襲資料研究会」を立ち上げ、残された資料を当館に寄託されて書誌解題を作成する研究を続けておられることが綴られています。研究の場としても当館を活用してもらえるのは、図書館員としてありがたくうれしいことです。

 二つ目は、沢井実「高度成長期の職業訓練政策:新職業訓練法(1969年)の成立をめぐって」(南山大学紀要『アカデミア; 社会学編』第19号(2020.6)です。1969年に成立した職業訓練法の制定にあたっては経営者団体労働組合が積極的に関与したことが資料から裏付けられています。特に労組側の一次資料の多くが当館所蔵資料から引用されています。本稿は日本近代教育史の一側面としても大変興味深く読むことができる論文で、このような研究に当館資料が活用されたことはアーキビストの喜びとするところです。(谷合佳代子)

新着雑誌です(2020.9.29)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労働法学研究会報 No2725 2020.9.15 (201384229)

賃金と社会保障 1759・1760号 2020.8.25 (201384252)

賃金と社会保障 1761号 2020.9.10 (201384286)

労働基準広報 No2040 2020.9.11 (201384310)

労働基準広報 No2041 2020.9.21 (201384344)

月刊人事労務 379号 2020.8.25 (201384377)

 

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三池闘争60年シンポジウムin関西

 1960年におきた「総資本対総労働の闘い」と呼ばれた「三池争議」から60年を迎える今年、大阪で以下のようなシンポジウムが開かれます。三池争議終結から3年後の三三井三池炭鉱で起きた炭じん爆発事故は戦後最大の労働災害であり、今もその後遺症に苦しむ人々がいます。

 シンポジウムではこの三つの出来事、すなわち、争議、炭じん事故、後遺症への補償獲得闘争、という今に続く問題を取り上げます。

【集会概要】
「三池闘争60年シンポジウムin関西」
炭じん爆発と高次脳機能障害 ―今につづく闘い―
日時:10月17日(土)10時20分(開場10時)16時30分終了
場所:大阪市立阿倍野区民センター
資料代:1,000円
主催:三池闘争60年シンポジウムin関西実行委員会

<スケジュール>
第1部(10時20分)映画「ひだるか」上映
第2部(13時30分)三池争議を振り返る映像・講演
第3部(15時)炭じん爆発と高次脳機能障害

新着雑誌です(2020.9.17)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労政時報 3999号 2020.9.11 (201384211)

労務事情 No1411 2020.9.15 (201384336)

ビジネスガイド No891 2020.9.10 (201384278)

ビジネスガイド No892 2020.10.10 (201384302)

労働判例 No1224 2020.9.15 (201384369)

季刊労働法 270号 2020.9.15 (201384393)

労働法学研究会報 No2724 2020.9.1 (201381195)

労働経済判例速報 2417号 2020.8.10 (201384351)

労働経済判例速報 2418号 2020.8.20 (201384385)

労働経済判例速報 2419号 2020.8.30 (201384187)

労働経済判例速報 2420号 2020.9.10 (201384245)

 

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『大阪砲兵工廠年表』

久保 在久著(2020年9月/耕文社/A4判170頁)

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 「大阪砲兵工廠」とは、戦前日本最大級、アジア最大級の兵器工場で、大阪城周辺で事業を開始して、2019年で150年という節目となる。

 著者久保在久は、1987年11月に『大阪砲兵工廠資料集』(上・下、日本経済評論社)、2019年5月に『大阪砲兵工廠物語』(耕文社)を発刊し、本書はその第3弾とも言える。他にも、『大阪社会労働運動史』(社会運動協会)の第1巻・2巻でも、大阪砲兵工廠に関わって、久保が詳細に執筆している。

 『大阪砲兵工廠資料集』は、「日本産業技術史学会第1回資料特別賞」受賞という高い評価を得て、朝日新聞毎日新聞の「ひと」欄に掲載された。

 2019年の『大阪砲兵工廠物語』については、当欄でも紹介したが、今回の「年表」は、集めた新聞記事を中心に作成し、『物語』で書き切れなかった事項について、「年表から読み取れること」として補強されている。

 これらの一連の研究蓄積が、― 大阪砲兵工廠が、東洋一といわれる規模の軍需工場であり、長年の戦争に次ぐ戦争を重ねてきた近代史の中で、その大きな一翼を担ったことには相違ないが、一面、その過程で、大阪の街の産業の発展や町の形成にも寄与するところが大きかったのではないか、との視点でいくばくかの事実を明らかにできたのではないかと思っている ― と著者は述べている。

 『年表』は、1870(明治3)年~1945年の敗戦と陸海軍両省廃止までの75年間の、大阪砲兵工廠に関わる出来事を詳細に刻んでいる。その出典は、朝日・毎日両新聞をはじめとして、日本立憲政党新聞、東雲新聞、大阪平民新聞、大阪鉄工組合機関紙、日本労働新聞、官業労働新聞、等の各新聞の他、『日本労働年鑑』(大原社会問題研究所)の各年版、『大阪砲兵工廠沿革史』(1902年/大阪砲兵工廠)、『大阪工業会50年史』(1964年)、『日本における資本主義の発達年表』(楫西光速、大島清、加藤俊彦、大内力編/東京大学出版会/1953年)、等々、広範囲にわたって深く探求されている。

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<『年表』から読み取れること>

 見出しだけの紹介になるが、― 「多彩な訪問者」、「多発した労働災害」(作業中の爆発事故で50人もが死亡した1880年の事故は『物語』で記述されているが、1925~1930年には、毎年200人以上の「公傷病者」が、多い年には300人近くに達している。資料編として、「大阪砲兵工廠各工場の衛生的所見」ほか、職工の労働実態を掲載して、どれほど過酷な働かせ方であったかに、著者の想いが伝わる)、「植民地の同化政策」(台湾や朝鮮の植民地政策に大阪砲兵工廠への旅行見学が利用された)、「報道統制」(日露開戦を前にして軍隊に関わる記事の禁止が官報号外で告知された)―

<著者が関わった二人のこと>

 八木信一との出会い― 陸軍直営の兵器工場である大阪砲兵工廠で労働組合「向上会」を結成して、大阪初のメーデー1921年)の総指揮者である八木信一について、没年はじめ不明な部分が多くて、気にかかっていたところ、古本屋で買った『寝屋川市誌』から町制時代の議員名簿にその名を見つけて、市役所に調べに行った。遺族の住所が判明し、養女鞆子さんを訪ねて、一年がかりで、父の思い出『八木信一伝』発刊にこぎ着けた。「大阪の労働運動史に大きな足跡を残した人物の等身大の実像が後世に残ることになったことは喜ばしいことである」と。そして、鞆子さんのご厚意で八木の時代の組合旗や貴重な資料が大阪社会運動協会に寄贈され、永年保存されることになった。

 高田鉱造の回想― 戦前は3・15事件で検挙され、戦後は「大阪労働運動史研究会」を主宰した、大阪労働運動史研究の重鎮であるが、この人の聞き書きも久保が担当し、1991年自伝『一粒の種』の出版に至った。この高田鉱造も一時期、大阪砲兵工廠で働いていて、「向上会」にも加わったが、その語りが興味深い。

「まだ明確な社会主義思想をもっていたわけではなかったが、御用組合のようなかたちで発足した向上会には義理で加盟しただけで、何の関心ももたなかったというのが正直なところだった」と。字数の関係で高田氏について詳しく言及できないが、エル・ライブラリーの「高田文庫」も高田鉱造氏からの寄贈資料である。

 

 以上、大阪砲兵工廠に関わる一連の丹念な掘り起しと著述はもちろん、この二人の先達との関わりをはじめ、多くの社会労働運動史刊行への関わりなど、歴史を刻み、語り伝える並々ならぬ事跡は、まさに頭のさがる「ライフワーク」であり、後に続く者にとって、心からの謝意を届けたい。

※本書は、エル・ライブラリーで割引購入することができる。

 『大阪砲兵工廠物語』税込み定価1100円→1000円に

 『大阪砲兵工廠年表』税込み定価1500円→1300円に

(伍賀 偕子<ごか・ともこ> 元「関西女の労働問題研究会」代表)