エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

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『介護離職の構造―育児・介護休業法と両立支援ニーズ』

池田心豪著(労働政策研究・研修機構 2023年3月 A5版308頁)

 本書は、JILPT(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)が、第4期プロジェクト研究シリーズとして、日本が直面する中長期的な労働政策の課題に係る研究の成果を全7冊の単行書として取りまとめたうちの第4巻であり、「育児・介護期の就業とセーフティーネットに関する研究」介護班の成果として纏められた。

 著者は、JILPTの主任研究員で、専攻は職業社会学。本テーマについて多数の論考や著書がある。

 

<本書の目的と全体の構成>

本書の目的は、「介護離職ゼロ」をめざした、仕事と介護の両立支援について、貴重な調査(「家族の介護と就業に関する調査」2019年)を踏まえた、「介護離職」の構造的分析と、政策提言にあり、全体の構成は以下の通りである。

序 章 介護離職問題と両立支援の現在地
第1章 法制度と実態の乖離を問う─本研究のための「構造」概念の整理
第2章 介護離職防止のための法政策─育児・介護休業法の枠組み
第3章 長期介護休業の必要性─その理由の多様性に着目して
第4章 日常的な介護と介護休業─介護休暇・短時間勤務との代替関係
第5章 介護者の健康と両立支援ニーズ─生活時間配分と健康問題の接点
第6章 介護サービスの供給制約と介護離職─介護の再家族化と両立支援ニーズ
第7章 「望ましい介護」と仕事の両立─介護方針の多様化と介護離職
第8章 介護離職と人間関係─職場、家族、友人との関係に着目して
終 章 多様性に対応した両立支援に向けて

<多様性に対応した両立支援にむけての政策的示唆>

 本書はまず、「法制度と実態の乖離」を問うところから始まる。1995年制定の育児・介護休業法は、3か月(93日)の介護休業を企業に義務づけていたが、その取得者が少なく、多様な両立支援の整備をめざして、法改正が進められ、2009年に、年5日の介護休暇が新設されている。さらに、2016年の改正では、介護休業の期間を拡大せず、分割取得を可能にし、短時間勤務を義務化せずに、所定外労働免除を義務化している。

 本研究は、現行法が想定する仕事と介護の生活時間配分の問題から守備範囲を広げて、介護者の健康や人間関係の問題など、介護離職につながりうる多様な問題にも着目し、対応可能な両立支援制度の考え方を提示している。

 本研究の分析結果は、以下のようにまとめられている。

1)3ヶ月を超える長期介護休業のニーズは、介護離職のリスクを高める。その主な理由は、日常的な介護への対応と介護者の健康問題。

2)介護休業・介護休暇・短時間勤務のニーズは相互に関連しており、長期の介護休業が必要な離職リスクには、短時間勤務でも対応可能。

3)介護による健康状態悪化や家族・友人との関係悪化にともなう介護離職リスクにも、短時間勤務でも対応可能。

厚生労働省からのJILPTへの要請であった、「介護休業制度の利用状況調査」に対する結論として、「介護離職」ゼロに近づける政策提言として、「短時間勤務の新たな可能性」が示唆されている。

 300頁を超える分厚い研究書だが、章毎の要約が配置されていて、どこから読んでも理解しやすい構成で、特に、実態調査分析の展開は、興味深い。

(伍賀 偕子〈ごか ともこ〉 「関西女の労働問題研究会」元代表

 

 

新着雑誌です(2023.7.28)

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労働基準広報 No2139 2023.7.11 (201438033)

労働基準広報 No2140 2023.7.21 (201438173)

労働経済判例速報 2517号 2023.7.20 (201438132)

労働法学研究会報 No2793 2023.7.15 (201438207)

 

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新着雑誌です(2023.7.20)

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労政時報 4059号 2023.7.14 (201438066)

賃金事情 No2874 2023.7.20 (201438041)

ビジネスガイド No936 2023.8.10 (201438157)

月刊人事マネジメント 391号 2023.7.5 (201437951)

労働経済判例速報 2515号 2023.6.30 (201438090)

労働経済判例速報 2516号 2023.7.10 (201437985)

POSSE vol.53 2023.4.30 (201438017)

賃金と社会保障 1829号 2023.7.10 (201438124)

 

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『越境と連帯』(社会運動史研究4)

大野光明・小杉亮子・松井隆史 編(新曜社 2022年7月 A5版200頁)

 本書は、2018年12月に社会運動史研究の「新しいメディア」をめざして立ち上げられた『社会運動史研究』の第4号で、今回は、「越境と連帯」をテーマにした特集である。

 「権力を持たない市政の人びとが社会を動かすためには、他者と手をつなぎ、力をつくり出す必要がある」(p.6)。

 「越境と連帯」は社会運動にとって、本質的で普遍的なものである。この特集では、日本の「戦後」、正確に言えばアジア太平洋戦争後の、特に冷戦期における越境と連帯の運動史を対象とした論考やインタビューが掲載されている。

 3人の編者による冒頭の総論では、歴史的系譜を振り返りながら、近代における資本主義と国民国家による苛烈な暴力のなかで人びとがそれに抵抗し越境と連帯の実践を育んできた背景が述べられている。そして、「戦後」の日本社会は「戦場」や「占領」を外部化し、植民地主義を否認・忘却しながら、「復興」と経済成長、そして「平和」――それが現実とかけはなれた幻想としてあったとしても――へと一国主義的に閉じていった、と概括されている。その一国主義的に閉じた日本社会のありようを批判し、その周辺や外部で生じる暴力を問題化しつつ、冷戦のもとで引かれた境界線を問うというかたちで運動は展開していった、と。

 一つひとつの作品を紹介することは字数からも筆者の力量からも出来ないので、目次5番目の全(チョン)ウンフィの論考について、編者が評している部分を以下の通り要約する。

全さんの論考は京都府宇治市在日コリアン集住地区・ウトロで1980年代に展開された居住権運動を主題としている。ウトロの居住権運動を支援する日本の市民運動が、ウトロ地区の住民と出会い損ねていたことに注目している。本論考では、人びとが国家の内側での越境と連帯をようやくにして発見していった歴史を描き、「戦後」日本の運動史が越境と連帯を見事達成してきたかのような予定調和の物語への抵抗として、読むことができる。

 日本人支援者が不就学の「在日」一世の「非識字」に出会い、構造的な差異に気づいていく過程が明らかにしているように、市民が地続きの朝鮮の民衆に出会うまでについやしてきた過程がリアルに追跡されていることに、深く学ばされた。        (伍賀 偕子〈ごか ともこ〉)

<目次>

◆越境と連帯の運動史—日本の「戦後」をとらえかえす(大野光明・小杉亮子・松井隆志)
アメリカ人留学生のベトナム反戦運動 ――太平洋を横断する運動空間のなかの沖縄(大野光明)
◆反アパルトヘイトの旅の軌跡 ――「遠くの他者」との連帯のために(牧野 久美子)
◆インタビュー 武藤 一羊さん
党・国家に依らない民衆(ピープル)のインタナショナルへ
  ――1970年前後の経験からたどる〈越境と連帯〉の運動史  聞き手:大野光明・松井隆志
資料『解放闘争国際情報 連帯』総目次(第1号1971年5月~第4号1973年11月)
◆地続きの朝鮮に出会うにほんじん
─ウトロ地区と向き合った京都府南部地域の市民運動の軌跡 全 ウンフィ
◆インタビュー 内海 愛子さん
在日朝鮮人問題を出発点に、日本の「帝国主義」を問う
  ――日本朝鮮研究所、アジアの女たちの会の時期まで  聞き手:松井 隆志
◆インタビュー 浜田 和子さん ノリス恵美さん イルゼ・レンツさん
ベルリンの街で女が集まったら
  ――1980~2020年代「ベルリン女の会」の歩み  聞き手・解題:小杉 亮子
◆インタビュー 河野 尚子さん
ソーシャルワーカーとして、JFCとその母親たちに寄り添う
  ――マリガヤハウス・河野尚子の活動経験から 
 聞き手・解題:小ヶ谷千穂・原めぐみ・大野聖良
◆社会運動アーカイブズ インタビュー 古屋 淳二さん(アナキズム文献センター)
運動のための本棚をめざして  聞き手:大野光明・小杉亮子・松井隆志
◆書 評
・田中 宏『「共生」を求めて』 高谷 幸
・猿谷弘江『六〇年安保闘争と知識人・学生・労働者』 長島祐基
・法政大学大原社会問題研究所・鈴木 玲 編著『労働者と公害・環境問題』 仁井田典子
・アリス&エミリー・ハワース=ブース『プロテストってなに?』 濱田すみれ
編集後記
なぜ私たちは『社会運動史研究』を始めるのか

新着雑誌です(2023.7.7)

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賃金事情 2873号 2023.7.5 (201439270)

企業と人材 No1125 2023.7.5 (201439304)

労働法学研究会報 No2792 2023.7.1 (201439213)

労働基準広報 No2138 2023.7.1 (201439247)

賃金と社会保障 1828号 2023.6.25 (201439338)

月刊人事労務 413号 2023.6.25 (201439361)

 

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新着雑誌です(2023.6.29)

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新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労政時報 4058号 2023.6.23 (201439353)

賃金事情 No2872 2023.6.20 (201439205)

労働法学研究会報 No2791 2023.6.15 (201439239)

労働基準広報 No2137 2023.6.21 (201439262)

労働経済判例速報 2514号 2023.6.20 (201439189)

地域と労働運動 271 2023.3.25 (201439296)

地域と労働運動 274 2023.6.25 (201439155)

 

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大牟田市立図書館と三池カルタ館の見学記

 6月3日(土)から開催中の福岡県大牟田市石炭産業科学館の展示「社宅のくらしと紙芝居」については、すでにお知らせしました。当館の谷合がオープニング・イベントに参加するため、6月3日に大牟田に参りまして、午後からの紙芝居の上演や講演などを見学してきました。遅くなりましたが、その報告を。

 大入り満員の会場では、懐かしい紙芝居に触れて、炭鉱まちの社宅文化の一端を垣間見ることができました。これも貴重な地域資料であることを実感した次第です。紙芝居についても研究が進んでいることを知り、門外漢ながら資料の世界の奥深さに感嘆したものです。

大牟田市石炭産業科学館での紙芝居上演

 それに先立ち、6月3日午前中は大牟田市立図書館に表敬訪問しました。乾達(いぬい たつし)館長、山田元樹館長補佐、芝田尚哉郷土資料ご担当に図書館を案内していただき、その後は同じ建物内に隣接する三池カルタ・歴史資料館に伺いました。

大牟田市立図書館の閲覧室

 図書館では、デジタルアーカイブの話題についていろいろとご苦労談をお聞きし、デジタルアーカイブの課題と言われる「金と人」がここでもやはり大きな課題となっていることを痛感させられました。維持するだけでも予算がかかる上に、コンテンツを追加しようとするとさらにその金額並びにサーバー維持代金が増加するという悩ましい問題が。

 大牟田市立図書館では、2021年10月に「大牟田市三池炭鉱歴史資料デジタルアーカイブ」を公開されています(既報)。このデジタルアーカイブは、アーカイブズ学の最新の知見に基づく研究成果の賜物であり、これまで利用が難しかった貴重な資料群が大量に電子化されています。今後はこの利用が進み、いっそう活用されることをわたしも願っています。

大牟田市石炭産業科学館で開催中の「社宅のくらしと紙芝居」関連資料を展示

 館内では至るところにさまざまな図書館展示が行われていて、とても情報が多いです。郷土資料のコーナーには貴重な資料も配架されていますが、より貴重な資料については書庫内にあるということです。

「図書館 de ボードゲーム」という楽しい特集展示

 学校連携にも腐心されている様子がわかります。市内の小中高校に配布する「学校セット」もすでに何組か事務室内に常備されていました。セット内容についてはwebサイトで公開されています。

 また、館内展示と案内で知ったのですが、最近、大牟田市動物園の中に絵本美術館が開設されたとのこと。いってみたいミュージアムが一つ増えました。

 大牟田市立図書館ではたっぷりお話を伺い、館内も案内していただきましたが、たくさん撮影してきた写真をすべて紹介することができないのは残念です。

 続いては、図書館に隣接する通称「カルタ館」へ。アポなしだったにもかかわらず、梶原伸介館長が快く迎えてくださいました。企画展示は「戦国武将歌留多展」でした(6月25日で終了)。これほど多くの武将カルタが古今東西で作られていたとは! 驚きの展示でした。そしてミニ展示されていた「震災・防災カルタ特集」に心惹かれたので、許可を得て遠景撮影しました。個別のカルタは撮影していませんが、全体像をチラ見してください。カルタを使って子どもたちに防災の心得を教えるという知恵に感心しました。

大牟田市立三池カルタ・歴史資料館の「関東大震災から100年 震災・防災カルタ特集」

 このカルタ館はカルタだけではなく、考古学資料もたくさん収蔵されています。常設展示されている土器や武具やさまざまな資料も見どころのひとつです。また、カルタだけではなく、最近のカードゲームも多数取り揃えられています。こういう遊びはデジタル時代でもすたれることがないのだなあと感慨深いものがありました。

 あわただしい大牟田行でしたが、午後からの石炭館でのイベントに参加し、「三川坑炭塵爆発事故慰霊碑」にもお参りして、大牟田の人々に温かく歓迎していただいたことが心に残るひと時でした。

 石炭館での展示は7月9日(日)まで開催。(谷合佳代子)