エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)

ブログ記事の引用転載を希望される方は、https://l-library.hatenablog.com/about をご確認ください

祝! 鷲谷花さんがサントリー学芸賞受賞

 このたび、映画研究者の鷲谷花さんがご著書『姫とホモソーシャル』でサントリー第45回学芸賞を受賞されました。おめでとうございます!

 鷲谷さんは幻灯研究者としてもすぐれた成果を残しておられる方で、これまで何度も当館とともに幻灯上映会を開催していただきました。専任の研究職に就くことなく3人の子育てをしながら大変な苦労をして日々の研究に精進された結果が、このサントリー学芸賞という栄えある受賞となったことは、ほんとうに素晴らしいです。

 下記リンク先にご本人のコメント全文が掲載されています。その中で、エル・ライブラリーにも言及していただきました。

専門的に資料を集めて保管するアーカイブがあってこそ、文化史研究者として生きていけるわけで、いずれそうしたアーカイブへのご恩返しができればと願ってきましたが、今回の受賞が、その願いが一部なりとも叶うきっかけになるとしたら、それもまたありがたいことです」

との言葉通り、この度は多額のご寄付も頂戴しました。心より感謝申し上げます。

www.newsweekjapan.jp

 さて、本書の内容について簡単にご紹介すると、今まで雑誌『ユリイカ』などに掲載された既出論文をもとに加筆された10本を集めた論文集になっています。

 サントリー学芸賞の選評(野崎歓・放送大学教授)によれば、「批評としての迫力みなぎる映画論が展開されている」という冒頭の賛辞に始まり、「緻密な議論の運びと、クールな(だが燃え上がる想念を秘めた)筆致ゆえに、論述に勢いがあり、読んでいて爽快ですらある」と全編絶賛の嵐で、最後は「これから鷲谷氏がどのような地平を切り拓いていくのか、楽しみでならない」と締めくくられています。

 まったくわたしも同感で、忙しすぎて本書を読む時間がとれないわたしは、ほんの数ページを「斜め読みしよう」とページをめくり始めたら、引き込まれてしまって鷲谷沼にはまりそうになりました(笑)。みなさま、この見事な文体に酔いながら本書をお楽しみください。巻末索引で映画のタイトルを眺めていると、無性にそれらが見たくなってきますよ。お正月は映画三昧で過ごしましょう~。(谷合佳代子)

おもな目次

Ⅰ 魅惑の家父長制
第1章 大階段上のイモータン・ジョー――『マッドマックス 怒りのデス・ロード』、ヒエラルキーと革命
第2章 「代行」する王=息子としてのバーフバリ――女性の望みをかなえる家父長制
Ⅱ 黒澤明と逆らう女たち
第3章 真砂サバイバル――『羅生門』における「ぐじぐじしたお芝居」とその放棄
第4章 姫とホモソーシャル――『隠し砦の三悪人』における「悪」への抵抗
Ⅲ 内田吐夢の「反戦」
第5章 悔恨の舟――内田吐夢監督作品の高倉健
第6章 淡島千景のまなざし――「反・時代劇映画」的ヒロインの「フェミニズム」
Ⅳ フェミニズムとホラー
第7章 恐怖のフェミニズム――「ポストフェミニズム」ホラー映画論
第8章 破壊神創造――二一世紀のクエンティン・タランティーノ監督作品における「フェミニズムへのフェティシズム」
Ⅴ アニメキャラの破格の魅力
第9章 美しい悪魔の妹たち――『太陽の王子 ホルスの大冒険』にみる戦後日本人形劇史とアニメーション史の交錯
第10章 孤高のナウシカ、「ポンコツ」のハウル――規格外の個性と関係性

[著者]鷲谷花(わしたに・はな)
1974年東京都生まれ。映画研究者。筑波大学大学院文芸・言語研究科博士課程修了。専門は映画学、日本映像文化史。主に近現代日本の社会運動と映像メディアとの関連について研究を行い、近年は昭和期の幻灯(スライド)に関連する資料発掘と上映活動にも取り組んでいる。雑誌『ユリイカ』等に映画批評を多数寄稿している。主な著書に『淡島千景――女優というプリズム』(共編著、青弓社、2009年)、訳書にジル・ルポール『ワンダーウーマンの秘密の歴史』(青土社、2019年)がある。

労働映画百選の通信と目録

 「NPO法人働く文化ネット」が10年前から始めた「労働映画百選」という企画の集大成といえる冊子が発行されました。一つは労働映画の作品選であり、もうひとつは同NPOが発行している「通信」の合本です。簡単に内容を紹介します。

『労働映画目録海外編(1)1894~1989』

この冊子は(1)とあるように、続編が出ることが予定されています。

 そもそも「労働映画百選」というプロジェクトクトの狙いはどこにあるのでしょう。

「日本では労働映画という言葉は社会告発的メッセージ映画という従来の狭い枠から抜けきれず、広く一般の人たちも含めた関心の高まりを呼び起こすまでには至っていないように思われ」たので、「「働く人たちの仕事と暮らしを描く映像作品」という広い意味で労働映画を捉え直し、その発掘・保存、定期鑑賞会などを通して、労働の過去・現在・未来について考えること」になったのです(「はじめに」より)。

 そこで映像制作・研究者の清水浩之さんが依頼を受けて作成されたのが、この膨大なリストなのです。海外の労働映画データベースに登録されている作品などの中から、日本で公開されたものを中心に1037本が選ばれました。このリストはタイトル、上映時間、製作国、監督、日本公開年以外にも1行程度の簡単な内容紹介文がついています。

 そしてもう一冊は月刊ミニコミ誌「労働映画百選通信」(2015年創刊)の60号までの合冊です。これを眺めているだけでも、なんだかたくさん映画を見たような気になれます。テーマごとに映画が厳選されていたり、新作の紹介やイベント紹介があったり、まったく飽きない楽しい通信です。しかも、「そういう視点でこの映画を見たら違うものが見えてくるに違いない」という気づきも与えられます。

 なお、日本の労働映画目録については既に『日本労働映画の百年』が発行されており、当館も所蔵しています。

 さあみなさん、このリストを手に、どんどん映画を楽しみましょう~! 死ぬまでに全部見ることを目標にこれから生きていきたい、館長谷合でした。(谷合佳代子)

新着雑誌です(2023.12.18)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

賃金事情 No2883 2023.12.20 (201456829)

労務事情 No1438 2023.12.15 (201456852)

労政時報 4068号 2023.12.8 (201456878)

季刊労働法 283号 2023.12.15 (201456886)

 

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新着雑誌です(2023.12.12)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち、最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

賃金事情 No2882 2023.12.5 (201456845)

労務事情 No1482 2023.12.1 (201456811)

人事の地図 No1251 2023.12.1 (201456704)

企業と人材 No1130 2023.12.5 (201456738)

ビジネスガイド No940 2023.12.10 (201456761)

労働経済判例速報 2528号 2023.11.10 (201456787)

労働経済判例速報 2529号 2023.11.20 (201456670)

労働判例 No1295 2023.12.1 (201456795)

労働判例 No1295 2023.12.1 (201456795)

 

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『闘って正社員になった 東リ偽装請負争議6年の軌跡』

   東リ偽装請負争議原告・弁護団編(2023年11月/耕文社/A5判140頁)

 まず、本書の宣伝チラシ(なかまユニオン作成)から引用しよう。

偽装請負を告発し、2012年改正派遣法の『労働契約申込みみなし制度』で、派遣先での組合員全員の直接雇用・正社員化を勝ち取った東リ偽装請負争議。労働組合こそが働く者の権利を守る拠り所であることを示したその闘いの意義を、組合員、弁護団、支援者らで振り返る。誰でも組合をつくって闘える!中間搾取と差別雇用を放置してはならない!

 東リ偽装請負争議の勝利は、「労働契約申込みみなし制度」(派遣法第40条の6)を使って裁判闘争を経て正社員となった初の事例である。

<東リ偽装請負争議6年の概要>

★ 東リ株式会社は、兵庫県伊丹工場において、主力製品である巾木(はばき)(床と壁の繋ぎ目に使用される建材)製造の巾木工程と、接着剤製造の化成品工程で、1990年代後半頃から、原告ら労働者を偽装請負で就労させてきた。

★ 2015年夏に原告ら労働者は、偽装請負会社L社の解雇・パワハラ攻撃に対抗して、労働組合を結成し、弁護士への相談過程で、自分たちの就労状態が偽装請負であることを知り、2017年3月、「労働契約申込みみなし制度」に基づく承諾通知を東リに送付し、直接雇用を求める団体交渉を申し入れた。東リは偽装請負会社をL社から、新しく用意した派遣会社S社に労働者を移籍する過程で、組合員だけを採用拒否し、5名は伊丹工場から放り出された。

★ 2017年11月、5名は、東リに対して地位確認等を請求する訴訟を神戸地裁に提起した。2020年3月、神戸地裁は、偽装請負ではなかったと請求棄却の判決を下した。

★ 原告らは直ちに控訴し、控訴審の大阪高裁では、異例の証人調べを経て、2021年11月、1審判決を取り消し、すべての原告について東リとの労働契約関係を認めた。

★ そして、高裁判決から7ヶ月後の2022年6月、最高裁は、上告棄却、大阪高裁判決を確定させた。しかし、東リは、判定確定を真摯に受け止めることなく、5人の就労を拒否し続けた。原告らは、金銭解決を拒否して、広範な支援の輪で会社を包囲し、2023年3月27日、正社員としての就労を勝ち取った。

 失業保険が切れた後の苦境の中でも、約6年の間、団結を固めて、支援の輪を拡げ、「東リの偽装請負を告発し直接雇用を求めるL社労組を勝たせる会」(「勝たせる会」)による東リ包囲の諸行動が重ねられた。

  • 職場復帰した原告らは、「全東リなかまユニオン」として、新たな職場改革、当たり前の労働組合活動に取組んでいる。

<偽装請負事件の裁判の先例~判決の意義>

 本書は、その闘いの報告や教訓にとどまらず、派遣と請負に関する基礎的な解説も含めて、初の事例の意義を社会全体に拡げる手がかりを示す、学びの書と言える。一つの事実をめぐって、神戸地裁と大阪高裁が真逆の判断を出した比較表(119~122頁)を見れば、立証過程における原告と弁護団の尽力の跡が読み取れるし、今後に生かせる貴重な記録である。

 偽装請負とは、書類上、形式的には請負(委任、委託を含む)契約だが、実態としては労働者派遣であるものを言い、違法である。請負とは、「労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの」(民法)だが、派遣との違いは、発注者と受託者の労働者との間に指揮命令関係が生じないということが大きなポイントである。偽装請負は、労働者派遣法等に定められた派遣元(受託者)・派遣先(受注者)の様々な責任が曖昧となり、労働者の雇用や安全衛生など、基本的な労働条件が十分に確保されない。

 非正規労働者を大量に使う偽装請負形式が蔓延したのは、1990年代である。2008年のリーマンショックに伴い大量の派遣切りが起こり、2009年正月には、日比谷公園で年越し派遣村の取組みがなされて社会問題化したことを受けて、2012年民主党政権が、派遣法を改正して導入したのが、「労働契約申込みみなし制度」(=派遣禁止業務や無許可派遣、期間制限などの“違法な派遣労働”があれば、派遣先企業がその労働者に対し、「労働契約の申込みをした」とみなす制度)である。その場合、労働者が承認すれば、派遣先は直接雇用しなければならない。しかし、この規制を逃れようと、偽装請負が巧妙になり、規制を骨抜きにしようとする経営者団体の策動が続いている。そのような状況下で、雇用主の責任を負わないで労務を利用する事業者に原則に立ち戻って、雇用責任を追わせる判決を勝ち取り、5人全員の職場復帰を実現したことは、より公正で人間らしい労働の実現に向けて全国の非正規労働者に勇気をもたらすものである。

 私自身も、2009年のパナソニックPDP事件において、最高裁が雇用契約の成立を認めない判決を出した時も、東リ裁判における神戸地裁の不当判決の時も、傍聴に参加して「不当判決」と弁護団が掲げた文字に憤りの拳を挙げた想い、そして、大阪高裁前で、原告全員と弁護団の「勝訴」の喜びの瞬間(表紙になっている)に立ち会えて、久々の感激を共有したことを、今もリアルに思い起こし、本書の紹介をできることを喜びと感じている。

 「あとがき」には、「日本で初めて派遣法による地位確認の判決となったこの事件も過去の権利闘争とつながっている」と記されている。(伍賀 偕子 ごかともこ)

アメリカよりローラ・ハイン先生ご来館

 11月23日に開催された大阪大学グローバル日本学教育研究拠点主催のイベント「日本近現代史ワークショップ——Laura Heinさんを迎えて」に登壇のため来阪されたハイン先生と、グローバル日本学教育研究拠点副拠点長の宇野田尚哉先生(大阪大学大学院人文学研究科教授)と、宇野田ゼミの院生である李嘉棣さん、そして私で、22日の午後に淀屋橋の適塾を見学したのち、当館にハイン先生をご案内いたしました。

 ハイン先生が監修された『新ケンブリッジ日本史』の第3巻「近代日本と帝国主義(1868年〜21世紀)」は、1990年代に発行された旧版を大幅に書き換え、新たな日本近現代史の歴史像を描き出したものです。その詳細は末尾のリンクからご覧いただくとして、まずは大前提として「明治維新」を「Meiji Revolution」(明治革命)であると規定して、かつての(今も)日本のアカデミズムを規定する講座派歴史学と距離をとった歴史叙述を行っている点を重視したいと思います(講座派と労農派については、拙稿「講座派と労農派」山口輝臣・福家崇洋編『思想史講義【戦前昭和篇】』ちくま新書、2022年をご覧ください)。

 さらに、冷戦の崩壊前後から日本の近現代史研究の領域においても関心が寄せられるようになった「帝国」「植民地」「植民地近代」などをキーワードとしつつ、日本社会におけるマイノリティの存在をとくに重視している点は、日本語で発信される研究と英語圏での研究との距離が徐々に縮まりつつある現状を象徴しているようです。

 とはいえ、日本語で発信される研究の多くが「重箱の隅をつつきまくったあげく重箱を壊す」かのように、一次資料の精読に基づき実証性を高める方向に進んでいくばかりで、結局のところ、一般の歴史好きの読者にとっては何が何だかわからない、という状況に陥っていることは否定できません。英語圏の研究は、英語で執筆された先行研究に多くを依拠しているということもあって、実証性の部分では日本語の研究に劣るのかもしれませんが、「歴史像の大きな枠組み」を積極的に読者へと提示して、最新の研究へと誘導するアグレッシブな姿勢には、大いに学ばねばならないと感じた次第です。

 でも、日本で暮らして生の一次資料に触れ、ミクロな視点/草の根の視点から歴史を描き出す作業によっても、英語圏の歴史研究に接続することは可能だと私は思っています。実際、昨年当館を訪問してくださったアン・シェリフ先生やハイン先生ら英語圏の研究者の方々と、日本近代文学・日本近現代史を専門とする日本側の研究者が、共同で戦後日本の文化運動を主題とした英語の論文集を準備しています。私は、当館で整理をはじめている故・和田喜太郎さん(1930〜2012年)が遺された一次資料をもとに、「サークルからミニコミへ」という章を執筆しました。私の日本語の原稿をシェリフ先生が英訳してくださり、現在はハイン先生がシェリフ先生の翻訳を再チェックしてくださっているとのこと!  先生方には、お手数をおかけしてしまっています。今後は、当館の貴重な資料をより活用してもらうためにも、英語圏での情報発信を進めていきたいと無謀にも計画しています。

(30年前に英検準1級に合格したけど、あれは幻?というくらいアホになった黒川)

 

『新ケンブリッジ日本史』の詳細については以下のリンクをご覧ください。

https://www.cambridge.org/core/books/new-cambridge-history-of-japan/AFE9ABA82D905C55A2656D2B439E892B

エル・ライブラリー書庫5にて 宇野田先生(左)、ハイン先生(中央)、黒川(右)



 

新着雑誌です(2023.11.30)

今週の新着雑誌です。

新着雑誌のうち、最新のものは貸出できません。閲覧のみです。

労政時報 4067号 2023.11.24 (201456753)

労働法学研究会報 No2801 2023.11.15 (201456662)

労働基準広報 No2150 2023.11.1 (201456696)

労働基準広報 No2151 2023.11.11 (201456720)

 

詳細な目次はこちら

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