連載第16回 職場新聞(9)『ラップ』その2
『ラップ』創刊号には職制との軋轢についての生々しい記事が見られる。1号3面には、「M氏ラクガキ帖を破り捨てる」という記事があり、職場に置かれたらくがき帖に、名指しで非難文書が書かれているのを見た職制がそのページを破り捨てる事件があったことがわかる。
そのほかにも、同号には、「便所まで時間、回数を制限される」「時間になってから手を洗うようになっている」「組合大会や職場会にもっともっと、協力してもらいたい」「有休や、生休をもらう時に、今まで気持よく休ませてくれたことがありますか」「主任さんは私らと一緒に話すのがバカくさいような言い方をする」等職制に対する不満記事が多い。一方「貴方は会社にあっては中堅幹部の紳士として、又組合に於いては指導的立場にある斗士であろう。」というような記事もある。
職場新聞で「職制」と表現されているのは各職場に配置されている係長、主任、組長をさし、彼らは職場における管理職であると同時に組合員でもあるという微妙な立場であった。
この種の事件はらくがき運動が始まった頃から起っており、組合員同志や職制に対して個人的な中傷が書かれるため、職制が、らくがき帖を隠したり、らくがき帖が破かれたり、赤鉛筆で消されることもあった。
『ラップ』創刊時、編集に携わった白石道夫氏によると、この時期は、争議後2年しかたっておらず、争議前、旧組合に属していた係長など職制と一般労働者との間にしこりが残っていたこと、1956年半ばから会社側の締め付けが厳しくなり、職制が会社の指示を職場へ持ち込んでくることの影響が見られるという。
一方、この混打綿職場の問題については、『職場新聞代表者会議のまとめ』(1957)に次のような報告が見られる。
「混打綿ではじめて新聞を出した時、職制に対する批判が生々しい感情のまゝで圧倒的に多くあがってきた。そのまゝ新聞に編集し職制にみせ職制のいい分も聞いた。そしてそれを編集しつぎにその反響をみんなにらくがきしてもらい再び新聞にとりあげた。これを積み重ねることによって解決の方向へ向つている。」
実際の新聞でも3号以降(2号欠)、職制批判の記事はほとんど見られなくなっている。
(下久保恵子 エル・ライブラリー特別研究員)
混打綿職場の状況等については、当時、同職場で働いていた白石道夫さんにご教示を得た。感謝いたします。
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